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ココアの甘みと姉妹たち
「改めてだが、グレドーラだ。ブラッドスマッシュの長、クラーグの娘だ。戦の神に奉仕もしている」 そして、ゴルドンの妹だ、とグレドーラは続ける。 「あたしは、ダキニラ。新聞記者だよ。こっちは秘密ね」 しれっと、盗賊であることを隠すダキニラ。手にしていた幸運神の聖印も一瞬で消えたかのように袖の中に隠す。 手を広げて、なかったかのようにパタパタふる。 「ふむ……」 グレドーラは、幸運神の神官にして盗賊という変わり種のダキニラに、多少驚いたようだが、それ以上つっこまない。 運ばれてきた、ホットココアを落ち着いたしぐさで啜っている。 他の神の使徒に、戦神の教えを押し付けるつもりはないらしい。 「あたしも、このごろになって、急にきょうだいが出てきたんだ。 今まで知らなかったんだけどね?」 それを聞いて、グレドーラもかすかに苦笑する。 「アーゼリン殿は自由な方らしいからな。私はゴルドン兄が戦士団に入ってから生まれた。彼女が部族を離れてかなりたってからだ」 グレドーラは、アーゼリンが去った後、オークの族長が他のオーク部族出の妻との間に作った子供だった。 ダキニラとゴルドンの母、アーゼリンは、ゴルドンがオークとして一人前扱いされる、と言ってもまだ子供だが、戦士団に入団したと同時に部族を離れた。 「あたしらは、母さんがあんなだからさ。ドーラさんにとってゴルドン兄貴ってどんな存在?」 ダキニラと、ゴルドン、シルビアは、父親違い、種族違いという特殊な兄妹だ。 種族・部族が異なるが、ただ同じ母から生まれたという確かなつながりがある。 だが、母親違いの兄妹は違うかもしれない。 族長の元に結集し武勇を尊び戦うオークにとって、同族で母親違いの兄妹は微妙な、重大な問題かもしれない。 はたして。 「兄は、私にとって超えるべき壁であり、打ち倒すべき相手だ」 予想通りの言葉に、ココアを飲んでいたダキニラの目がすっと細まる。気取られないぐらいに僅かにだが。 ダキニラの背後でも剣呑な気配が湧きあがった。 「兄は、心技体に優れ、なおかつ知勇兼備であり、さらに美しさも持っている。 兄は私が倒す。 強さも弱さも知らぬ、つまらぬ女が兄に纏わりつくなど断じて認めぬ!!」 がちゃっ……。 背後で、何かがこぼれる音がした。 (なんだよ。結局兄貴が大好きなんじゃねえーか。 シィルちゃん、ニータちゃん、ドーラちゃん。全員ブラコンかよ) 二人の様子を、賢者風のローブを着て見守っていたブロントは、零したココアを拭きながら心の中で呟いた。 ダキニラも神官ではあるが、盗賊の戦技で戦神の戦巫女と正面からやり合うのは分が悪い。 そのため、万が一グレドーラが殺意、戦意をもっていた場合のバックアップとして、ブロントが変装して待機していたのだ。 とりあえず、この場で事が起こることはなさそうだが。 (おい、神様たち。俺にゃ、あんたらの声は聞こえねーけどよ。これでいーのかよ) 『・・・・・・良き』 何か答えがあった気もしたが、もちろんブロントに聞こえるはずがなかった。