節制の悪魔

運動場の外周を、銀色の髪を無造作に束ねた若い女性がランニングしている。 可愛らしさも含んだ結構な美人だが、今はかなりのペースで飛ばしているので、その表情は厳しい。 （まったく、あの体力バカについていくのも大変だからね。一緒に合わせて食べると太るし） 上司かつ、護衛対象の金髪脳筋馬頭を思い浮かべながら、シルビア伍長はハイペースでランニングを続ける。 （こっちは体形維持するのも大変だってのに、あの暴食悪魔は……） 無心にランニングしているつもりでも、ぐるぐると頭の中には雑念が混じるものだ。 その頃……。 「ああ～、シルビアちゃん、闇落ちしちゃったか。どっかで間違えたかな」 暴食悪魔ことブロント少尉は、ゲームの真っ最中だった。コーラを飲みながらピザをパクつき、お気に入りのキャラを眺めている。 「でも、魔王さまのシルビアちゃんもきれいでカッコいいな。 　『貴様らに、安らぎを与えよう。死という平等の安らぎをな』 　って、悪役すぎｗ 」 「呼びましたか……」 音を立てないで、すっと忍び寄ってきた魔王、もとい、シルビア伍長。 「ひいい！！本物！！」 画面に映っている、銀色悪魔をちらりと見ながら、シルビア伍長はため息をつく。 「まったく、休みだからって、朝っぱらから食べまくって、ゲーム三昧ですか。 そろそろ、体育大会ですよ。ランニングでもしてきたらどうですか？」 「えっ、わたし、もう３０キロ走ってきたよ。途中でピザ買って、これ食べたらお昼のランニングに出るよ」 「……」 （あなたの方が、よっぽど魔王じゃないですか……） シルビア伍長は、この金髪脳筋馬頭が、本当に人間なのかと疑ってしまった。