望みすら
一体どれほどの時間が経ったのだろうか。荒れ果てたトイレの中、彼女は佇んでいる。スーツは泥にまみれ、身体は冷たい手錠によって束縛されていた。自分がどうしてここにいるのか、どこで間違えたのか、答えは彼女の中にはもうない。ただぼんやりと天井を見上げながら、薄暗い蛍光灯の下で一筋の涙が静かに流れ落ちる。 この場所には何もない。冷たいタイルの壁、壊れかけの蛇口、そして一台の古びたトイレ。荒れ果てた空間に、彼女の存在だけが異質で、しかしそこに完璧に馴染んでいるようにも見える。 足元に溜まった水たまりは鏡のように彼女の姿を映し出し、その姿に対して何の感情も湧かないことに気付く。かつては誰かのために、何かを成し遂げるために努力していた。けれど今は、そんな過去の感情も目標も遠い夢の中のようだ。 手の中に握られた手錠の鍵がカランと音を立てる。それが何を意味するのかさえ、彼女にはわからない。ただひたすらに疲れ、ただ静かに休むことを望んでいる。それが彼女の唯一の望みだ。しかし、その望みすらもこの冷たい空間では叶わないように感じていた。