冷たい
彼女は暗く湿った小さな部屋に閉じ込められていた。壁は傷だらけで、剥がれかけたポスターや落書きがかろうじて過去の誰かの存在を示していた。空気は重く、かすかな腐敗の臭いが漂っている。彼女の両手首には冷たくて重い手錠がはめられており、その感触は逃れられない現実を痛感させた。 彼女はかすかな光が差し込む部屋の隅にうずくまり、足を抱えて震えていた。冷たい床の感触が肌に伝わり、孤独と絶望がじわじわと心に広がっていく。目を閉じるたびに、彼女は自由だった日々の光景を思い出そうとしたが、それは霧がかかったように曖昧で、もはや現実感を失っていた。 ドアの向こうから時折聞こえてくる足音や、遠くで響く金属音は彼女の恐怖を煽った。誰がそこにいるのか、何が起きているのか分からない不安が彼女を縛りつける。ドアが開くたびに、彼女は息を殺し、次に何が待ち受けているのかを恐れていた。時折、何も言わずに食事が差し入れられるが、それはただの生き延びるためのものに過ぎず、彼女の魂を救うことはなかった。 時間の感覚は完全に失われていた。昼夜の区別もつかず、ただ同じ暗闇の中で過ごす日々が続いているように感じた。壁に刻んだ無数の線は日数を数えようとした痕跡だが、それもいつしか意味を失い、ただの無力な叫びとなった。彼女の心の中では、恐怖と希望が交互に揺れ動き、どちらが勝つのか分からない戦いが続いていた。 時折、彼女は小さな音で泣いた。その音は部屋全体に反響し、自分の孤独さを改めて実感させた。助けを求める叫びは、この分厚い壁と重いドアに阻まれ、外の世界には届かないことを彼女は知っていた。それでも、心のどこかで希望を捨てきれずにいた。誰かが自分を見つけ、ここから救い出してくれるのではないか—そんな淡い希望が彼女をわずかに支えていた。 ある日、ドアが突然開き、彼女は反射的に顔を上げた。薄暗い部屋に差し込む光が目を刺し、彼女は一瞬目を細めた。シルエットだけが見えるその人物は、無言で立っていた。彼女の心臓は激しく鼓動し、何が起こるのか分からない恐怖と、もしかしたら助けが来たのかという希望の狭間で揺れ動いた。けれども、その人影が一歩前に進むたびに、彼女の希望は再び恐怖に押しつぶされていくのを感じた。 その人物は彼女に手を差し伸べることもなく、ただじっと彼女を見下ろしていた。冷たい視線が彼女を刺し、再び絶望の底に突き落とされたような感覚に襲われた。助けは来ない。ここから逃れる道はない。彼女の目から再び涙がこぼれ落ち、それは床に静かに吸い込まれていった。 彼女はその場に崩れ落ちた。自分の声がかすれ、もう叫ぶ力も残っていない。ただ静かに時間が過ぎていくのを待つしかなかった。光が再び消え、ドアが閉まる音が響く。その瞬間、彼女の世界はまた暗闇に包まれた。希望の光は完全に閉ざされ、ただ静かな恐怖だけが彼女のそばに寄り添っていた。 暗闇の中で彼女はただ、自分がここにいる理由を考え続けた。しかし、答えは出ない。彼女が知っているのは、この冷たい部屋と絶え間ない孤独、そして逃げ場のない恐怖だけだった。