奇妙な訪問者
薄暗いトイレの中で、彼女は身をかがめてじっとしていた。蛍光灯のちらつく光が、その古びたタイルの壁を頼りなく照らしている。湿った空気が漂い、床には黒ずんだシミが広がっていた。スイッチの横に貼られた「不審じ」と読める紙切れが、何か不吉なメッセージのように見えて、彼女の心をさらに不安にさせた。 彼女の名前はナオ。いつものように学校からの帰り道を歩いていたはずが、気がつけばこの狭いトイレに閉じ込められていた。どうしてここにいるのか、記憶は途切れていて曖昧だ。水着のまま、腕には手錠をかけられ、自由を奪われた状態で、ナオはただ震えることしかできなかった。 トイレの扉の外から、時折誰かが動く音が聞こえる。その音は、まるで誰かが彼女の行動を見張っているかのようにゆっくりとしたリズムで響いてくる。心臓が早鐘のように打ち始め、冷たい汗が背中を伝った。「誰か…いるの?」声を出そうとしたが、喉が詰まってしまい、音は出なかった。 突然、蛍光灯が一度大きくちらついて消えた。暗闇に包まれたトイレの中で、ナオは息を飲んだ。全く何も見えない。外からは依然として足音が響いていて、その足音が次第に彼女のいるトイレの扉の方に近づいてきているように思えた。 その音が扉の前で止まる。息を潜めて、ナオは何が起こるのか待ち続けた。静寂の中、扉の向こうでかすかな呼吸の音が聞こえる気がした。誰かがそこにいる。扉一枚隔てた向こう側に、確かに何かが立っているのだ。 突然、扉がガタッと音を立てた。ナオは思わず後ずさりし、壁にぶつかった。何が起こっているのか分からないまま、彼女は目を閉じて必死に恐怖をこらえた。その瞬間、何かが彼女の耳元でささやくような音が聞こえた。「出られないよ…ここからは」 ナオの体は恐怖で硬直し、全身が冷たくなった。目を開けると、蛍光灯が再び点滅して、部屋の中が薄暗く照らされた。誰もいない。しかし、彼女の耳元にはまだその言葉が響いているかのようだった。「出られないよ…」 手錠をかけられた手をぎゅっと握りしめながら、ナオはその場で震え続けた。この場所から出る方法はないのか。この奇妙な訪問者は一体誰で、何のために彼女をここに閉じ込めているのか。その答えは全く見えなかった。ただ一つ確かなのは、この場所が彼女にとって決して安全ではないということだった。 そして再び、外から足音が聞こえ始めた。今度は遠ざかるのではなく、再び扉の前に戻ってきている。その音が彼女の心にさらなる恐怖を刻みつけていく。何かが、まだここにいる。ナオはただ、震えながらその足音が止まるのを待つしかなかった。