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“死神”と“悪魔”
間も無く沈む夕日に照らされた町を望む展望台。シリア・リーパーは常ならぬ恐怖を感じていた。知らず、鎌を握る手に力が入る。 「ククッ、そう警戒しなくても良いじゃあないか。見ての通り丸腰の女だ。君の好物だろう?シリア君」 夕日を背負いシリアに対しているのは、つい先日この町を訪れたばかりの探偵・江楠真姫奈だった。いつもの余裕の笑みを浮かべ、眼前の“死神”へ語り掛ける。 「それとも、今はこう呼ぶ方が相応しいのかい?・・・『シリア・ザ・シリアルキラー』とねェ」 見ただけで油断のならない相手だと判断した。それが間違いでなかったとシリアは確信する。表面上は平静を装ったが、内心は奈落の穴の前に立ったかのように戦慄していた。 「わざわざその名前で呼んでくるという事は、今夜は貴女を狩ればいいのかしら」 「おやおや、気の早い事だ。確かに私は君よりか弱い探偵だがねェ、だからこそ策は巡らせてあるとも」 真姫奈は封筒をシリアの足元に投げた。封筒の口が開き、中から数枚の写真が滑り出てくる。 「!!!」 「この夏に撮影された写真だ。君の先輩が実家に帰省するのについて行って、その地で一波乱起こしたようだねェ?」 シリアの脳裏に常識では考えられない、魔術と怪物に彩られた日々が蘇った。そして、自分の本性を知る相手がこの写真を所有する事実が意味するところは。 「貴女に何かあれば、私の正体を先輩にバラす・・・と言いたいのね」 「結構。利発なお嬢さんだ」 乾いた拍手を贈る真姫奈に、シリアは唇を噛んだ。だが、こうした手合いは何かの取引が目当てのはずだと、シリアは真姫奈に問いかける。 「それで?私に何をしてほしいと?」 「こちらの用事は二つ。まずは、藤巳幽魅という女性を知らないかな?藤色の髪を三つ編みにしておさげにした髪型、橙色の双眸、歳の頃は二十代後半から三十代前半という事だが」 名前に聞き覚えはなかったが、その外見には覚えがあった。先日、山で目にした姿だ。 「・・・成程ねェ、アタリと。君はポーカーフェイスを覚えた方が良いねェ、シリア君?」 「・・・二つ目は?」 真姫奈は苦虫を噛み潰したような顔のシリアに歩み寄る。シリアの肩を親し気に叩いて、耳に顔を近づけた。 「こちらが本命。私の同志となり、刃先の向きを揃えて欲しい。敵は・・・まあ、私があの写真を出したことで、おおむね想像はつくだろう?」 「・・・邪神」 シリアの答えに真姫奈は満足げに目を細めた。 「素晴らしい答えだ。私の同志となるならば、君の正体は愛しの先輩には隠しておくし、君を警察に売る事もない。命がかかったゲームで無為に手札を減らす事ほど愚かしい事は無いからねェ」 「・・・・・・・・・分かった、仲間になってあげる」 シリアは鎌を下げると、ふぅと息を吐いた。諦めるしかない。自分は“悪魔”に目を付けられてしまったのだと。 「ククッ、良き友人と出会えたこの日に感謝を」 「・・・『友人』として忠告しておくけど。タバコ止めた方がいいわよ。気配を殺していても臭いですぐに分かるから」 「手厳しいねェ」 真姫奈は取り出しかけたタバコをポケットに押し戻し、苦笑した。