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富士とカラテと黒天使

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2023年08月30日 07時51分
対象年齢:全年齢
スタイル:イラスト
デイリー入賞 11
ウィークリー入賞 11
参加お題:

「わあ、すごーい」 「きれい、街からそんなに離れていないのに、こんなすごい山があるのね」 「話や、写真では見たことがあるけど。本物は迫力が違うわね」 少女達は、目の前に広がる、富士山の威容に歓声をあげる。 ヘリコプターで演習場に降り立ったばかりで突然目の前に現れた、鋭くも美しい景観だ。 活動拠点を離れてこの国にやってきたのは、 目の前で威容を誇る富士山、そのふもとで行われる予定の、 大規模な演習に、ブラックピースの面々もオブザーバーとして参加するためだ。 傭兵部隊では体裁が悪いため、某国の軍属扱いになっている。 部隊の面々も、この任務の目的は解っているはずなのだが、初めて間近で見る富士山に圧倒されてしまっている。 普段拠点としている街や、村、森は代わり映えのしない平坦な景色が多いのだが、 この国の変化に満ち溢れた自然の風景は非常に美しく、力強く、訴えかけるものがある。 また、それは、美しいものに心を動かせる少女たちの心が、まだ健常を保っている証でもある。 だからと言って、景色に見惚れて突っ立っているわけにはいかない。 現在隊長が不在なので、副官の金髪ポニーテール少尉が皆をたしなめる 「ちょっとみんな、私たちは観光に来たわけでは、つっ!!」 そこまで少尉が言ったところ、いきなり誰かに突き飛ばされて、細身だが小柄ではない少尉の体が空を舞う。 「ううっ・・・」 誰かにタックルを食らったうえ、体制を崩したところを投げ技を食らったらしい。 一応受け身をとって、地面に転がって、襲撃を仕掛けてきた相手に向き直る。 「遠足じゃないぞ!!新兵ども!!」 地面に伏せている少尉を見下ろしているのは、日本陸上自衛軍の女性軍曹だった。 後ろには彼女の部下らしい女性兵士たちが従っている。 黒髪をボブヘアーにした、小柄な体形の女性軍曹を見て、少尉は油断ならない相手と即座に判断した。 私より年下に見えるぐらいだけど、本当はスカリー軍曹と同じぐらいね。 少尉も、見た目で相手を判断するほどぬるい生き方はしていない。 「おや、少尉殿でしたか、失礼いたしました。」 そこで日本軍の女性軍曹は、ことさら折り目正しい完璧な敬礼をして見せてから言う。 「あまりにもかわいらしかったので、誤認いたしました。謝罪いたします。ブロント少尉殿」 あれ、これってもしかして、喧嘩売られている? 解っててぶちかましてきたんだ。 「気にしなくて良い。私は”見た目通り”に若”輩者だ。”ヴェテラン”の意見具申には耳を傾けることにしている」 ことさら要所を強調した少尉の返事に、”ピキっ”、日本人軍曹のこめかみがひきつる音が聞こえた気がする。 「少尉殿以下、貴隊は徒手格闘の訓練が不足しているご様子、レクリエーションを兼ねた少尉殿との模擬戦闘を具申いたします」 と、日本人軍曹が言ったところで、赤毛の軍曹が少尉側から進み出た。 「Hey. Pretty Jap girl, you want to play with us? Lieutenant, please give me the role of playing with her」 「上等だ!!赤毛牛!!」 長身で筋肉質で押し出しの強い美人、ハリウッドでターミネータの相棒を務めていそうな赤毛のスカリー軍曹を見ても、小柄な日本人軍曹はひるむ様子がない。 いきなり模擬戦という名前の殴り合いを始めた二人の軍曹。 「ちょっと、ふたりともやめな・・・・・」 「すっこんでろ!!小娘!!」 「Shut up, little bitch!!」 「ひいっ!!」 立場上止めようとした少尉は、おっかない軍曹二人に怒鳴られて、飛び上がってしまう 「スカリー軍曹の方が、体格も腕力も上でしょうけど。 ちびっこ軍曹もなかなかやるみたいね。 彼女にはカラテがあるわ。 素早くて、正確でテクニシャン、ってところかしら。」 そんな少尉のもとにすっと寄ってきて、勝手に戦力分析を始める銀髪伍長。 「空手ガールとアマゾネス、どっちが勝つか見ものですね」 「何をやっているか!!!」 そこに静止の声が聞こえた。 金髪少尉と赤毛軍曹の隊長が、自衛軍の士官を伴って演習場にやってきたのだ。 「敬礼!!」 その場にいた全員が、現れた二人の士官に対して敬礼するも。 なぜか、喧嘩を売ってきた日本軍の女性軍曹は敬礼したまま固まっていた。 「中隊長……」 「……」 自衛軍の女性軍曹がこぼした呟きを聞き逃さなかった者がいた。 銀髪ロングこと、シルビア伍長だ。 もちろん、視線の先が自衛軍の士官ではないことに気づいている。、 「はっ!!軍曹の意見具申を採用し、両軍の交流のために、模範戦闘を実施しておりました!!」 上官の詰問に、金髪ポニーテールこと、ブロント少尉が正々堂々と報告する。 先ほど、軍曹二人に怒鳴られてびびっていたのが噓のようである。 「少尉、元気があってよろしい!! もう見知っているようだが、貴隊の世話役を務める、富士見2等軍曹だ。 よろしくお願いする。 」 見つめあう、友軍の隊長と部下の軍曹の様子、に気付いているのかいないのか、 自衛軍の士官が軍曹を紹介する。 「あらあら、富士山のふもとには、不発弾が転がっていたのね」 シルビア伍長は、誰に言うともなく、呟くのだった。

さかいきしお

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