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空を飛んでいるエルフ
逃げても飛ぶよ、束縛エルフ! 俺の名はソラノスケ。完全に人間だが、なぜかエルフの国に派遣されることになった。こんな俺でも、まぁそれなりには頑張ろうと思っていた。ところが、エルフの国に着いて三日目、騎士団の護衛をしているというエルフの女戦士・アエリスと出会ってしまったんだ。 「こんにちは、人間のソラノスケ。それにしても君はずいぶん変わったオーラを持ってるわね」 「俺? いや、なんというか……そこまでオーラ強くないと思うんだけど」 ちょっとドキドキした。エルフの女性ってスラリとした耳と美しい瞳が魅力的だって聞いてたけど、まさかここまで破壊力があるとは思わなかった。立ち姿からして気品が漂っていて、でも話すとどこか親しみやすい。こういうタイプって努力家なのかな――なんて、そんな妄想が止まらないほど見惚れてしまったわけだ。 そして俺は、かなり軽い気持ちで彼女に告白をかましてしまった。「エルフの戦士ってクール系かと思ったら、意外と話しやすいんだな。……あの、俺と付き合ってくれませんか?」みたいなノリで。 「えっ、いきなり……?」 「ごめん、なんか勢いで言った。もし迷惑だったら忘れてくれ」 ところが、アエリスは目を見開いて驚きながらも、真顔で頷いた。「いいわよ。ソラノスケ、あなたのものになるわ」その瞬間、背後の空気がボワッと冷えた気がした。どこかで聞いたんだよな、こういう一言って。あれ、なんかやばそう……? だが、その時の俺は気づかなかった。あれはきっと舞い上がってたんだろうな。アエリスは見れば見るほど好みで、俺のタイプど真ん中だった。しかも強いエルフの女戦士が自分に尽くしてくれるとか、もう夢かよ! しかし、それが悪夢の始まりだったんだ。 翌朝、俺の寝床のすぐ脇で彼女がじーっと立っていた。「おはよう、ソラノスケ。朝ごはん、私が口に運んであげる」 「自分で食べられるって!」 「そう……? でも私がやらないと、あなたは誰かほかのエルフに取られないか心配で」 「え、いや、そんなこと……」 その後もアエリスは食事から風呂から、移動の護衛から何から何までつきまとってくる。どう考えてもこれは束縛系だ。いや、束縛系というよりは究極のヤンデレじゃないか。俺がどこか行こうとすると、必ず「あ、どこに行くの? 私も行くわ」ってぴったりくっついてくる。たまらんけど、これは少し怖い。 そしていよいよ派遣期間も終わりが見えてきた。俺は日本に帰らなきゃいけない。アエリスに別れを切り出したところ、彼女はまるで大人しく受け入れる気配はなかった。 「俺、もう日本に帰るんだ」 「私も行く」 「ちょ、冗談、顔だけにしろよ」 アエリスは俺の腕をがっちり掴んで離さない。ヤバい、こいつ本当に来ようとしてる。俺は何とか彼女の手を振り払い、そのままドタバタしながら空港へ向かった。 飛行機に乗り込んで席に着いた時は汗だくだった。「助かった……これでやっと自由だ……」そう思ったのもつかの間、ふと窓の外を見下ろせば、なんとアエリスが空を飛んで追いかけてきてるじゃないか! 「はーい、逃がさないよ!」 「ま、まさかお前、飛べるのか!? ヤバすぎるよ……」 結局、空港に到着するまで彼女はずっと窓の外を並走していたらしい。俺は怖すぎて自分の席から動けなかった。カーテン閉めておけばよかったと本気で後悔するくらいには精神的ダメージを負った。 日本に着いてからも、彼女への対応で右往左往した。だが、次第に慣れてきたというか、「もう観念するしかないな」と思い始めた。束縛が強いのは確かだが、その分アエリスの愛情一途さはすごい。何より、自分のわがままな行動を全部受け止めてくれる懐の深さもある。あれ、これって意外といいんじゃ……? そんなこんなで俺たちは結局、日本で結婚することになった。なんだかんだで幸せ……なのかこれ? まぁいいか。オーライ、ハッピーだ。 昼下がりの空は透き通るように澄みわたり、雲たちが微笑むように東へ西へと流れゆきます。ビルの谷間を吹き抜ける風を受け、二人の姿は優雅な編隊飛行の鳥たちにも似ています。ここはエルフの森ではなく、人々が行き交うコンクリートの大地。それでも彼女の笑顔はいつまでもまばゆい。空を見上げるたびに思い出すのです。新しい日常――そして新しい愛の形を。まるで世界そのものが静かな音色を奏でるように、穏やかで無限の広がりに包まれているのだと。今日も二人は、風を感じながら未来へ向かって歩き続けるのです。