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エルフの嘘とドワーフの本気

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2025年03月31日 16時10分

エイプリアは森の奥深くに住む、少し天然なエルフの戦士だ。剣術や弓術は一流なのに、どこか不思議な言動で周囲を振り回す。今日も相棒のドワーフ、ガラードが朝から困惑顔だ。「エイプリア、なんか今日、妙にソワソワしてないか?」と尋ねるが、彼女は「へえ?」と微笑み、さも無邪気そうに小首をかしげるばかりである。 「いやさ、いつもどおり調子外れなことをするのは慣れてるけど……ほら、今日は何か特別な日だったりするのか?」 「そう? 別に何の日でもないよ。……あ、強いて言えば、ドッキリが美味しい日かもね」  エイプリアはほほえみを浮かべながら、やたらと意味深な返事をする。その手にはキラッと光る妖精文字のカードが覗いていたが、ガラードは特に気にも留めない。いつものエイプリアなら、なんでもなく見慣れた小道具だろうと思っていたのだ。  ふたりは集落を出て隣の街へ向かおうとしていた。だが、道中の小さな草原でエイプリアが突然立ち止まる。「ねえ、ガラード……大事な話があるんだ。聞いてくれる?」 「どうしたんだよ、珍しく真面目な顔して」  ガラードが振り返ると、エイプリアはまじまじとガラードを見つめた。その瞳はいつになく揺らぎがなく、真剣そのもの。普段は天真爛漫な彼女の様子に、ガラードは少し緊張する。 「実は……私、冒険をやめようと思う」 「は? なんだって?」  ガラードはあまりの一言に驚きの声を上げる。エイプリアはうつむいたまま、続けた。「たくさん冒険して、いろんな世界を見たけど……もう疲れちゃった」 「冗談、顔だけにしろよ。……って、おい、本気なのか?」  ガラードのツッコミ混じりの問いかけにも、エイプリアは静かに首を横に振るだけ。「……ごめん、正直、今日が最後の冒険だと思ってる」  いつもとは違う空気に、ガラードはやりきれない思いに胸を締め付けられた。さんざん一緒に危険をくぐり抜けてきた。突然、これで終わりだなんて、信じられない。  そこで、エイプリアは胸元から何かを取り出した。小さな細工のカプセルだ。その中には、妖精文字が書き込まれた小さな巻物が詰められている。「これ、私が今までずっと隠してきた秘密。もうガラードには隠せないから」 「おい、まさかヤバい魔術の類じゃないだろうな」 「ううん、大丈夫。大丈夫だから……」  そう言ってエイプリアがカプセルを開けようとした瞬間――。  バンッ! 大きな音とともに、エイプリアは草むらから取り出したプラカードを勢いよく掲げた。そこに書かれていた文字は「大成功~てってれー」。そして満面の笑みで叫ぶ。 「ガラード、引っかかったね! エイプリルフールだよ!」  ガラードは目を丸くして立ち尽くす。「な、なんだって……? お前、嘘だったのか?」  エイプリアはプラカードをぴょこぴょこ振りながら、まるで幼子のように笑っている。「そうだよ、冒険やめるわけないじゃん。私にとってのドッキリは芸術だよ。恋と一緒だな」  真面目に悩んでいたガラードにとっては、これ以上ない衝撃だ。あまりの拍子抜けに、彼は地面にへたりこんだ。 「くそっ……心臓が止まるかと思った。お前、ほんとに悪いエルフだな」 「ごめんごめん、でもエイプリルフールだから前から用意してたの!」  プラカードを掲げたままはしゃぐエイプリアに、ガラードは呆れたように笑う。「ま、まあいいさ……。お前の嘘には慣れているつもりだったが、今回はやられたな」  しかし、そこでもう一つ事件が起こる。ガラードは「ちょっと人目がないところへ行こう」とエイプリアを促した。周囲の騒音が遠ざかる裏通りまで来ると、ガラードは急に真剣な顔をして、懐から小さな箱を取り出す。 「エイプリア。俺はお前と、ずっと……ずっと一緒にいたいと思ってる。だから、受け取ってくれないか」  箱を開くと、そこにはきらめく指輪。エイプリアの瞳が急に大きく見開かれる。「え、これって……指輪?」  エイプリアは思わず息を呑む。本当に大切な瞬間なのは一目瞭然だ。しかし――今日はエイプリルフール。ここで「大成功~てってれー」とネタバラシをされるのではないか、という疑念がもやもやと頭を巡る。プロポーズに見せかけたドッキリでしょ?でも、もし逆に本気だったのに断ってしまったら、ガラードを深く傷つけてしまうだろう。  エイプリアは一瞬、戸惑いで固まってしまったが、覚悟を決めたようにガラードの手を取り、指輪をそっと受け取って微笑む。「……うん。ガラード、私……あなたと結婚するよ」 「え……? まじで?」  ふたりはまるで狐につままれたような表情でしばらく見つめ合っていたが、次第にふっと笑みがこぼれる。どうやら、ガラードもエイプリアも、心の底では本当に求め合っていたのだ。エイプリルフールが引き金になったけれど、そこにあった感情は揺るぎない真実だった。  その日の夕方、街の宿屋でささやかながら婚約の祝いをしたふたり。顔なじみの宿屋の主人が出してくれた花束を囲みながら、ささやかな乾杯をする。 「これで、本当に結婚するんだな。」 「うん、私もね、何かもう勢いで頷いたけど、悪い気はしてないんだ。」  互いに照れくさそうに酒を飲むふたり。ここまでバタバタと驚きの連続だったが、ようやく落ち着いた雰囲気が漂っていた。  ところが、夜も更けて部屋に戻る途中、エイプリアはふと立ち止まってガラードに問いかける。「ねえ、ガラード。あのプロポーズって……本当は嘘だったんでしょ?」  突然の問いに、ガラードは目を丸くしてから目をそらす。「ぎ、ギクッ……そ、そんなわけないだろ!」  彼のわかりやすい動揺っぷりに、思わずエイプリアは吹き出しそうになるが、「うん、わかった」と大人びた表情でうなずいて見せた。ふたりはきっと、この先も呆れるほど騒がしい毎日を過ごすのだろう。しかし、それこそが“嘘偽りのない真実の幸せ”なのかもしれない。  夜闇に広がる深い紺色の空を、いくつもの星屑がそっと横切っていきます。風は森の囁きを抱きしめ、遠い山肌を包み込むように優しく流れ続けるのです。街の灯火は微細な光の波を描き、ふたりの誓いを祝福するかのように瞬きます。空に浮かぶ月は静かに微笑み、その光が石畳を静寂のヴェールで覆います。大地の声は穏やかに溶け合い、人々の眠りを優しく導く調べとなるのです。いま、ふたりの人生は新しい調べを刻み、交わる魂は風とともに未来へ流れゆきます。こうして夜空の旅人は、その約束を胸に秘め、遥か遠くの物語へと漕ぎ出していくのです。

コメント (5)

Jutaro009
2025/04/01 13:24
ガボドゲ
2025/04/01 10:59
ucchie2772
2025/04/01 10:53
さかいきしお
2025/04/01 09:52
Alicia Stuart
2025/03/31 16:37

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いいねコメントありがとうございます。忙しくなって活動を縮小しています。返せなかったらすみません。

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