1 / 22
エルフの新入生は帯刀します!?
「おい、あれ見ろって。やっぱり刀持って来てるぞ」「しかも校則違反まっしぐらじゃん!」 朝の昇降口はひそひそ話で大賑わいだ。今日からうちのクラスに編入するエルフの新入生、名前はアロリーテというらしい。長い金髪を三つ編みにまとめて背中に垂らし、背丈ほどありそうな鞘を腰からぶら下げている。噂に聞いたとおり、見事な帯刀だ。 「へえ、あの子が噂のエルフの戦士か。なんか美人だけど近寄りがたいな」 隣のクラスメイトが小声で言う。 しかし俺――エピメは、そんなことよりもむしろ興味津々。エルフの戦士が人間の学校に来るなんて、普通はあり得ない。誰もが神経を尖らせているが、なんだか俺にはすごく面白そうに思えるのだ。 ホームルームが始まるまでしばらく教室で待っていると、ついにそのエルフが入ってきた。刀を揺らして席に向かう姿はどこから見ても浮いている。先生は…なぜかまだ来ない。いや、実は今朝から行方不明らしい。どうやらこの子を注意しようとした教育指導担当の先生も、初日に「斬り捨てられた」なんて噂されている。実際のところ、本当かどうかはわからないが、誰も直接確認しようとしない。 「エルフの戦士ですからね。ですよね」 なんて、教頭先生や他の教師までもが腑に落ちないまま納得している状態なのだ。 それでも学校は回らなくてはいけない。仕方なく副担任がホームルームを進める。 「えー、おはようございます。担任の先生は、えっと…都合によりしばらくお休みです。授業は予定どおり進めますから…」 クラス一同、何とも言えない表情で副担任を見つめる。すると斜め前の席からアロリーテがひらりと手を上げた。 「先生、テストの赤点って、なにか問題でもあるの?」 「そ、そうね、単位に影響が出るからもう少し勉強しないといけないかもね」 「ふうん。じゃあ注意したら先生も、いなくなるかしら?」 「えっ…そ、それは…」 副担任の顔がみるみる青ざめる。教室はシーンと静まり返ったままだ。俺はというと、正直ちょっとワクワクしている。なんだかこの子、すごい。エルフらしい優雅さもあるけど、噂通りの戦士のオーラがにじみ出てて、一筋縄じゃいかなそうだ。 昼休み。購買部にパンを買いに行く途中、上級生のヤンキーグループに呼び止められた。聞けば「新入生を呼び出したいから場所を貸せ」とのこと。どうやらアロリーテを体育館裏に呼び出すらしい。 「なんでお前が首突っ込むんだよ、エピメ」 ヤンキーの先輩が絡んでくる。 「だって、もし剣でぶった斬られたらヤバいじゃないですか」 ヤンキー達は互いに顔を見合わせて苦笑い。 「おいおい、冗談、顔だけにしろよ」 「いえいえ、冗談でもなんでもなく、本当に危ないですよ。あの子は…」 実のところ、俺はアロリーテが気になっていた。理由は簡単で、一目惚れってやつだ。それだけに、これ以上彼女の手に人の命がかかったらまずい。だからといって、彼女を止められるとしたら俺しかいないかもしれない。そう思い、意を決した。 放課後、ヤンキー達はアロリーテをうまく体育館の裏へと呼び出した。しかし数分が経っても悲鳴一つ聞こえない。「え、やっぱり殺されちゃった?」なんて隣で冗談混じりに言うヤンキーの先輩をなだめつつ、俺は恐る恐る体育館の裏手へと向かった。すると、そこでは驚く光景が繰り広げられていた。 「へ、へへっ、あの…だ、大好きです、アロリーテさん!」 ヤンキーのリーダー格らしき先輩が、なんと膝まづいて告白している! その隣にいた取り巻き達もさんざんビビっていたようだが、どうにか和やか(?)な雰囲気で収まっている様子。アロリーテも刀にはまったく手をかけず、「ふーん」と首をかしげているだけだ。 「お、おい、どういうこと?」 俺は思わず声をあげた。するとアロリーテがこちらを振り向く。 「まあ、彼らは素直に話しかけてきただけ。ちょっと勢いが激しかったから、最初は身構えたけどね」 「斬ったりは、しなかったんですか?」 「それはもちろんよ。だって、私は別にむやみに人を傷つけたいわけじゃないもの」 そう言って、彼女は腰の鞘をぽんぽんと軽く叩く。まるで「これは飾りなのよ」と言わんばかりだ。そしてアロリーテは不意に振り返り、ヤンキーのリーダーを見つめた。 「でも、残念だけどあなたの告白はお断りするわ。私は今、勉強に集中しなくちゃならないから」 「そ、そうですか…あ、ありがとうございました!」 失恋したヤンキーはしょんぼりする一方、なんだか清々しい顔つきでもある。見れば取り巻き達がそっと肩を叩いてやっている。何だ、ずいぶん平和な感じじゃないか。 俺はその場で、一つ気になることを見つけた。アロリーテの足元に、何やら封筒らしきものが散らばっている。 「これ…ラブレター?」 「あら、あなたは確か…同じクラスの人よね」 「エピメです。てか、こんなたくさんのラブレター、いつの間に!?」 「最近よく下駄箱に入れてあるんだけど…赤点は一瞬だよ。恋と一緒だな」 「なんか違くない!? ていうかそれどういうこと!?」 その瞬間、アロリーテの表情が少し陰る。 「…でもね、見てしまったものは仕方ないわね」 「え、えっ、何のこと?」 アロリーテはジャラリと刀をわずかに抜きかけた。俺は怖いというより、困惑しながら叫んだ。 「や、やめてくれ!今さらだけど、君を止めようとしてここに来たんだ!先生方を斬っただの、そんな噂は本当じゃないんだろ?」 彼女はふっと微笑む。 「先生方なら私と交換でエルフ界の学校に出張しているだけよ?」 「そ、そうだったのか…」 その場にいたヤンキー達もぽかーんと口を開けている。どうやら、すべては噂が噂を呼んで大げさになっていただけらしい。完全に物騒なエルフというわけではなかったようだ。 「それじゃあ私、帰るわ。赤点を克服するためにも塾ってやつに通ってみようと思うの」 「そ、そうなんだ。じゃあ、また明日」 「ええ、エピメ…あまり他人の秘密をのぞいてはダメよ。見られたら仕方ないから」 笑みを浮かべた彼女は、腰の刀を揺らしながら校門の方へ遠ざかっていく。その背中は、想像よりもずっと繊細な寂しさをまとっているように見えた。 驚くほど明るい空が、白い雲のレースを織りなす昼下がり。静寂の校庭を抜けた先には、澄みきった風がまるで合図のように吹き渡り、木々のささやきが新しい季節の足音を高らかに奏でております。わずかに香る花の甘さが通り過ぎた記憶をやさしく抱きとめ、見上げる先の雲は行く先を自由に示す羅針盤のようにも感じられます。彼女の背中が遠ざかるその光景に、果たしてどのような未来が続いていくのか――胸に抱く期待が、どこまでも広がる青空へと溶けてゆくのでございます。