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ネオンクロスロードを駆け抜けろ!
ネオン輝く未来都市〈ノクタルーム〉。そこには空飛ぶ乗り物も珍しくないものの、地を走るマシンを愛する者たちも多い。エルフの女戦士ネイオン・ルーフェリアもそのひとりだ。ボディに描かれたライムグリーンのエンブレムをなびかせ、今日も相棒のドワーフ・グラドを助手席に乗せて疾走している。 「グラド、ナビは任せたわよ。お前はコ・ドライバーだから、しっかりコースを把握しときなさいよ」 「おいちょっと待て、コ・ドライバーって何だ? MicrosoftのAIのことか?」 「冗談、顔だけにしろよ。それは“コ・パイロット”。自動車レースでのコ・ドライバーっていうのは戦術立案とペースノートの読み上げ担当。ラリー競技なんかで、ドライバーに道順やチェックポイントを指示するポジションなのよ。逆に航空機のコ・パイロットは機長の補佐で、飛行操作や緊急対応、モニタリングなどをサポートする役割。つまり、地上を走るレースでは協調して最速ルートを導き、空を飛ぶ航空機では安全飛行を二重に確保するわけ」 「何となくわかったが……俺がそこまで役に立つかは別の話だろう?」 「そこは腕の見せどころよ、グラド。ネイオンはブーストだよ。恋と一緒だな」 ネイオンがそう言ってアクセルを踏み込むと、青紫の街灯を横目に、低くうなるエンジン音が夜の道路を切り裂いていく。ビル群の隙間を縫うように配置されたホログラム看板はあちこちで踊り、ヘッドライトが溢れる高速道路と交差する。彼女の長い銀髪が不自然に揺れるたび、ダッシュボードの小さな魔法石がチカチカと共鳴した。 二人はネオン煌めく高架下で、街の走り屋たちからサーキット挑戦の話を聞かされる。 「一度サーキットに行ってみな。お前らより速いのは五万といるから」 たった一言でネイオンの闘争心は燃え上がった。今まで気ままに走ってきただけなのに、やけに胸が高鳴る。負けず嫌いな性格はエルフの血筋だろうか、それとも単に彼女のわがままな本能か。 「グラド、行くわよ。コ・ドライバーとして、気合い入れときなさいよ」 「やれやれ、いくらボケても終わらんだろうがお前……まったく面倒くさい性格だな」 さんざん文句を言いつつも、グラドの瞳にはどこか楽しげな光が宿っていた。 高く伸びるビルの谷間を抜けて、二人はサーキットを目指す。ライトに照らされるアスファルトが夜露にきらめき、音速を思わせる気流が彼らのオープンウィンドウから舞い込んでくる。ブレーキランプが閃光のように引いては消え、遠くのスカイウェイには無数のホバーシップが浮かんでいた。 まばゆい星々が散りばめられた夜空。その下、ネイオンとグラドのマシンは音もなくヘアピンカーブを翻弄しながら、やがて広大なサーキットの門をくぐります。風に混じる鋼鉄の響きと、白銀にきらめくエルフの肩甲。雲間で遊ぶ三日月の光が、路面に妖艶な影を描き出し、コンクリートジャングルの息を象徴するかのように揺らめきます。無骨なままのドワーフの手と、誇り高きエルフの瞳が交差するとき、世界は次のコーナーへの期待に満ちあふれ、あたかも永遠の旅路へと誘われているかのように感じられるのです。やがて二人の走りが闇を切り裂き、光のゲートを軽やかにくぐり抜けていきます。彼らの新たな物語は、まだ始まったばかりなのです。