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待ち合わせchapter 2 一之瀬 聖良(いちのせ せいら)
冷たい夜風が顔に突き刺さる。冬の喧騒に包まれた繫華街は、ネオンの明かりと人々のざわめきで溢れている。大晦日を控えた行き交う人々の足取りはどこか浮き足立っていた。 妹との待ち合わせに遅れている俺は、少し駆け足になっていた。ちらほらと降り始めた雪を楽しむ余裕などない。スマホの画面には、妹からの短いメッセージが光っている。 「お兄ちゃん、どこ?」 その文面に、彼女の不安げな声が聞こえるような気がした。聖良は昔から泣き虫で、些細なことで目に涙を浮かべていた。10歳離れた俺は、ずっと彼女の守り役だった。 ようやく約束の場所が見えてきた。白いベレー帽をかぶった聖良が交差点の近くに立っている。青髪のボブカットが街灯に映え、白いセーターにスカート、ニーソックスの清楚な姿が際立っている。しかし、彼女は怯えた表情を浮かべ、見知らぬ男に話しかけられていた。派手な服装の男が彼女を困らせている様子に、胸の奥がざわつく。 「聖良!」 名前を呼びながら駆け寄り、冷たく震える彼女の手を握った。 「遅くなってごめんな。待たせたな。」 聖良の瞳に浮かんでいた涙が止まり、ほっとしたような表情に変わった。 「君、何だよ。知り合い?」男が訝しげに問う。 「ええ、彼女の彼氏です。」 冷静を装いながらも声は硬くなっていた。妹の手を引き、その場を立ち去る。男は追いかけてこない。喧騒に紛れながら交差点を渡った。 「お兄ちゃん…」 小さな声で呟く彼女の声には、安堵と少しの責めが混じっている。 「ごめんな、聖良。遅れて。」 彼女は何も言わず、ぎゅっと手を握り返してきた。その温もりに、守るべき存在の重みを改めて感じた。 降り続く雪の中、俺たちは肩を寄せ合いながら歩いた。何も言わなくても、この瞬間だけは兄妹だけの静かな世界が広がっているようだった。