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待ち合わせchapter1 有栖川 百合華(ありすがわ ゆりか)
冬の夜空にはちらちらと雪が舞い、街灯の下で白い息が薄く広がる。繁華街は年末の喧騒に包まれ、行き交う人々の声と笑顔が溢れている。その中で俺は、指定された待ち合わせ場所で彼女を待っていた。 腕時計を見ると、約束の時間を10分過ぎている。寒さがコートを通じて骨身に染みる。手袋をした手でポケットからスマートフォンを取り出し、もう一度メッセージを確認した。 "〇〇駅の北口、19時集合ね—。" そう確かに書かれている。 彼女が遅れるのは珍しい。彼女——赤い革ジャンを羽織り、黒いミニスカートと黒いパンストが似合うあの清楚でいてスタイリッシュな姿——を思い浮かべる。いつもきちんとしていて、頼りがいがあるのに、どこか抜けた可愛らしさを持つ。そんな彼女が時間に遅れるとは思えない。少し心配になってきた。 足元に積もり始めた雪を見つめながら、周りを見回す。しかし、どこにも彼女らしき人影はない。吐き出す息が白く消えるたび、不安が胸の奥に広がっていく。人々の流れに目を凝らしても、赤い革ジャンは見当たらない。 「何かあったのか?」 自分の中で様々な可能性が浮かび上がる。電話をかけようか迷いながら、彼女の笑顔を思い出す。いつも少し照れたように微笑むあの表情。胸が締め付けられる。 意を決して電話をかけた。コール音が数回鳴った後、彼女の声が聞こえる。 「あ、ごめんね!どこにいる?」 その声にはいつもの明るさが含まれていた。ホッとした反面、疑問が湧く。 「いや、こっちのセリフだよ。北口の時計台の下で待ってるけど、どこにもいないじゃん。」 少し間が空いた後、彼女が申し訳なさそうに答える。 「えっ…駅の…北口?私、南口で待ってる!」 「えっ!?マジかよ…。」 思わずため息が漏れる。彼女らしいと言えば彼女らしいミスだ。真面目でしっかりしているけど、時々信じられないくらいのうっかりをする。 「わかった。そっちに行くから、動かないで。」 「うん、ごめんね!」 電話を切り、駅の反対側へ急ぐ。冷たい風が頬を刺すが、心の中では不思議と笑みが浮かんでいた。雪が肩に積もるのも気にせず、小走りで向かう。 駅の南口に着くと、すぐに彼女の姿が目に入る。赤い革ジャンが街灯の下で映えている。長い赤髪が雪の中で揺れ、黒いパンスト越しに細い足が目に飛び込む。やっぱり彼女は、どんな人混みの中でも目を引く存在だ。 「ごめん、待った?」 彼女が少し恥ずかしそうに笑う。その笑顔を見るだけで、すべての苛立ちが消えてしまう自分がいる。 「まあ…ちょっとだけな。」 軽く肩をすくめると、彼女が俺の腕にそっと手を絡めてきた。 「今日は特別な夜なんだから、怒らないでよ。」 その言葉に思わず笑みがこぼれる。「仕方ないな。次からはちゃんと確認してくれよ?」 「うん、約束!」 雪が舞い散る中、二人で歩き始める。年末の喧騒も、降り積もる雪も、彼女の隣ではどこか遠くに感じる。赤い革ジャンの温もりが、冬の寒さを忘れさせてくれる。