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パイレーツ・オブ・カスミチャン
「ヒャッハー!トリック・オア・トリートォォ!」 ハロウィンも差し迫ったある日の午後、うちのリビングに幽魅が現れました。・・・なんか海賊の格好して。 「幽魅、復活できたんだね」 「ふっふっふ、なにせ『ザ・フジミ』だからね。って、そうじゃなくて!今日のわた・・・おれさまは海賊なのだ!パイレーツ・オブ・カスミチャンだぞ!さっさとお菓子をよこしな!」 今日も幽魅は楽しそうです。というか、そもそもタイミングが早い。まだ昼過ぎだし、なんならハロウィンは来週です。 「分かった、これから用意するね。ええと、幽魅の実家のお仏壇にお供えすればいい?」 「なんで!?直接ちょうだいよぉ!」 直接でいいんだ。私はてっきり幽霊に食べ物をあげる時はお供えするものかと思ってました。 「幽魅は幽霊なのに直接飲み食いができるの?・・・あ、ラテ飲んでたっけ」 「あー、飲んだねぇ。なんで飲み食いできるか、私にも仕組みは分かんないけどねー」 幽魅と初めて会った日、幽霊だと分かった後で、幽魅が注文したラテを彼女自身が飲んだのですが、それが他の人にはどう見えるのかちょっと心配でした。透明人間がものを食べた時みたいに、胃袋の形通りにラテが溜まっているのが見えちゃわないかなと思ったのですが、どうやら他の人からも見えてないようでした。 「多分、幽魅が食べたものは神隠しみたいにこの世から消えるんじゃないかな。ほら、怪談とかで怪異に食べられた人もさ、食べ残しの体は見つかっても食べられた部分は見つからないし」 「そうだね・・・私、死んでから一度もお花摘み行ってないし、食べたものがお腹にたまる感じしないんだよね」 飲み込んだ瞬間から霊力かなにかに変換されてるのかな・・・改めて考えると不思議な存在です。 「それで、お菓子はどれくらい欲しいの?」 「Sukoshi.」 そう言って幽魅は左手でマシュマロひとつくらいのスペースを作りました。 「じゃあはい、黒豆おかきあげる」 「ハロウィン感ゼロじゃん!」 そう言いながら、幽魅はサクサクおかきをかじってました。その内に、玄関の扉が開く音がします。 「ただいま」 収録に行っていた玄葉が帰って来たみたいです。と、幽魅がいそいそと部屋の奥に飾ってあった船の写真の中に飛び込んでいきました。海賊の格好なので、一見最初からそういう写真だったかのようにマッチしています。そして玄葉がリビングに入ってきました。 「玄葉、おかえり」 「うん」 幽魅はきっと、玄葉にいたずらを仕掛けようとしてるのでしょう。玄葉は幽魅に背を向けて、テーブルの上にバッグを置くと、その中から1kg入りの塩の袋を取り出して、ノールックで幽魅の入った写真に勢いよく投げつけました。 「ちょい!?」 にゅっと写真から幽魅の腕が出てきて塩の袋をキャッチします。そのままリビングに出てきました。 「玄葉ちゃん、いきなり何するの!?」 「除霊」 「せめて袋から出して投げよ!?袋ごとはおかしいって!当たったら痛いじゃん!」 「袋越しじゃ清め効果ないのか、ちっ」 「あー!舌打ちしたー!舌打ちしたー!」 幽魅も話し相手が増えて楽しそうです。ハロウィンか・・・知り合いもたくさん増えたし、お菓子は大目に用意しておこう。