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【掌篇】魔術の師匠 5

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2022年12月21日 15時04分
対象年齢:全年齢
スタイル:イラスト

天に球体が鳴動している。ひとつ蠢くたび、空気に人知を超えた波動が伝播していく。あまりにも濃い神の密度の高さに、魔術を知らぬ無知な人間ですら、空に描かれる波紋を、法陣を、その図画を見て取った。  あれは神だ。そうでもなければ、説明がつかない。あれから感じる畏怖を、震える己の膝を、そして目の前の光景を。  先程まで10万の武装した軍勢が、鬨の声をあげていたのだ。  戦いの舞台となったのは、高低差の少ない開けた平原だった。そういう場所でもなければ10万の軍勢は立ち並ぶことは出来なかっただろうが、一方でなぜ彼の少女がその場所で待ち受けることを決めたのか、我々にはわからなかった。わかっていなかった。  その答えは、開戦が告げられて10秒で示された。今俺の目の前に広がる光景。10万の人の塊が、命を失い、形を失い、潰れて広がる様を。  体に収まらなくなりこぼれた血液が、洪水となって大地を赤く濡らしている。きっとこの土地には100年、200年経っても植物は育つまい。  少女が手を掲げた、その瞬間だった。頭上に鳴動するあの球体がぎゅんと音を立てて躍動し、次の瞬間には10万人が全て倒れ、潰れ、死んでいったのだ。  触れられることすらなく。  人々がおのずから頭を垂れ、体を潰して神に謝罪をしているかのように見えた。  我々は、手を出してはならぬものに手を出してしまったのだ。  突如地続きになった2つの世界。未知の文化、未知の技術、未知の人種。ただでさえ戦争の尽きぬこの地球に、新たな火種が舞い込んできたのだ。  両者がすれ違い、摩擦を生み、火がつくまでにかかったのはほんの数年だった。  近代兵器が有意を保っていられたのは、ほんの数日だった。  何が違ったのか、など語るまでもない。我々には存在の証明が出来なかった神が、彼の世界の者たちにとっては身近で当たり前のものだった、というそれだけのことだ。  存在のスケールが違いすぎたのだ。最終的にエルフたちと人類の戦力差は、巨象と蟻の例えですら傲慢と言えるほどに開いてしまった。  戦いは終わった。  人類の歴史も、ここで終わるのだろう。かつてネアンデルタール人が滅んだように。  あえて卑近な言い方をしよう。人類は、喧嘩する相手を間違えたのだ。 西暦20**年**月**日

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