【掌篇】鏡の中
「今日あったことのお話をしましょう」 「今日あったことのお話をするわね」 一家の当主以外立ち入ってはならないとされている、夢見の間。300年を数える当家に唯一伝わる、絶対の掟だ。 魔法で編まれた障壁が存在しているので、一家の血筋の、しかももっとも魔力量が多い者しか受け入れない厳格な部屋である。 弟妹や婿入り、嫁入りしてきた者たちは皆「あの扉の向こうには結局何があるのですか?」と問うてくるが、それにも答えてはならない。「一家の当主の秘密です」と微笑んで受け流すのみだ。 実際のところ、中は調度品も飾り柱も何もない、虚無のような真っ白い空間が広がっているだけだ。 その中央にぽつんと置かれているのが、金の装飾で縁取られた巨大な鏡である。 時間だ。鏡の正面に立つ。するとそこには私の姿と一緒に、髪色以外瓜二つの姿をした少女が映し出された。 「おかえり」 「ただいま」 くすりと笑って、改めて言う。 「ただいま」 「おかえり」 鏡の向こうにいるもう一人の私とお互いに挨拶をしたら、その日あったことを話し合う。 十年前にこの世を去った、大切なお姉様と。 この部屋には、誰も入ってはならない。私がこの家の当主となった300年前に生まれた、絶対の掟。
traditional media, ((cheek-to-cheek)), ((keep one\'s head in the frame)), same visual 2 girl,
black long hair, white short hair, smile,
pixiv, official art, wallpaper