【掌篇】魔術の師匠 2
「…誰だ?」 500年は誰も足を踏み入れていないであろう、朽ちた神殿の最奥にその人はいた。 道中、床はひび割れ壁は崩れ、天井からときおり剥げた石材がぱらぱらと落ちてくるような、いつ崩れてもおかしくない有様の神殿にあって、その少女は何故か汚れ一つない美しい姿で佇んでいた。 いや、少女だけではない。 どういうわけか、彼女の周囲30メートルほどの範囲だけが、まるで今日あつらえたかのように、壁も床も天井も、調度品もカーペットも美しく保たれているのだ。 俺が言葉を失っているのを見かねてか、少女が改めて口を開いた。 「お前よ…今日は皇暦の何年だ?」 少女の言葉に俺は目を見開いた。そして、頭の中でうっすらと想像していたかたちが、事実その通りであろうことを確信して、妙なきもちになった。 「…今日は神歴の220年…皇暦は、もうずっと前に失われた紀年法です」 それを聞いて、少女は驚くでもなく、ぼんやりとただ「…そう」とつぶやいた。