【掌篇】魔術の師匠 1
御年5000歳…エルフ属の祖とされるエルダー族の更に最高齢という彼女は、どういう経緯でか俺の魔術の師匠でもあった。 常人の500倍以上生きている彼女なのだから、教え方も人間とはスケールの桁が違う…かと思いきや、意外にも教師としても超一流で、なにしろ過去何百人という弟子を取っている。歴史に名を残す偉大な魔術師は、そのほとんどが彼女の薫陶を受けているのだ。 ただ5000年生きたのではなく、人に寄り添い、ときに歴史のあちこちに存在感を見せつけながらも、日々得たものを蓄積してなおかつ手放さないように生きる。それがどれだけ難しいことか、俺には想像もつかない。 俺は果たして、彼女の生み出す歴史の一部となれるだろうか。彼女になにか少しでも返せるものがあるだろうか。夜眠って朝起きて、そのたった1日を過ぎる度に、彼女の前から俺が消えてしまう最後の1日の存在を意識せざるを得なくなってくる。 というのに。 「これから作る魔術薬は、人の人格を奪って自由に操る魔術の媒介となる。時の権力者がたまに依頼を出してくるんだけど、めちゃくちゃ高く売れるんだよね。中々作りごたえのある薬だから、君も挑戦してみたまえ。」 「あ、レシピはみんなには内緒だぞ」 この5000年間、彼女に倫理を教える人間はいなかったのか!?