猿蟹合戦絵巻の秘密
猿蟹合戦は、一見すると単なる童話のようであるが、実は14世紀に起きた猿橋氏と蟹江氏の土地争いを描いた歴史絵巻である。 当時の陰謀渦巻く抗争の様子を、後世に伝えるために物語化されたものと言えよう。 時は南北朝時代、武家社会が台頭し始めた頃のこと。尾張国の有力武士であった猿橋義景と蟹江義秀は隣り合う領地を治めていた。 両者は表向き友好関係を保っていたが、互いの領土拡大を狙っていた。 ある時、蟹江義秀が自領の特産品である蟹を猿橋義景に贈ったところ、義景はこれを侮辱と受け取り、義秀の屋敷に押しかけて乱暴狼藉を働いた。 怒った義秀は家臣を集め、義景の居城を急襲。義景は命からがら逃げ延びたものの、屋敷は焼き払われてしまった。 この仇を討つべく、義景は密かに軍勢を集めると、義秀の屋敷を包囲した。篭城した義秀は、味方の尾張国司・土岐頼康に援軍を求めた。頼康は臼井・蜂須賀・栗山・卵山の四氏を義秀の元に送り込んだ。四氏は奇襲をかけ、油断していた義景軍を打ち破ったのである。 この一件で両者の対立は決定的となり、その後も小競り合いが絶えなかったという。しかし、次第に戦国大名の台頭により、両氏とも勢力を失っていった。わずかに残った一族は、この因縁の戦いの顛末を語り継ぐため、物語を作り上げたのだった。 民明書房刊「猿蟹合戦絵巻の秘密」