振向決闘訓練:火縄銃五歩の掟
織田信長の時代、戦国の世を生き抜くための非凡な訓練法が生み出された。その名を「振向」という。この決闘訓練は、五歩歩いた後に振り向いて火縄銃を撃つというもので、その場で相手を倒した者のみが生き残るという、極めて過酷なものだった。 この訓練法を織田信長に提案したのは、彼の側近である森可成である。可成は、武田騎馬隊との長篠の戦いを控え、織田軍の火縄銃隊の強化を図るべく、この一撃必殺の訓練を思いついたのである。 時は戦国時代末期、各地で激しい合戦が繰り広げられ、各大名は技術革新による軍備強化を迫られていた。 特に火縄銃の効果的な使用は、戦場での優位性を左右する重要な要素となっていた。森可成はこの時代背景を見据え、火縄銃による速射技術の向上を信長に進言した。彼の提案した「振向」の訓練は、火縄銃を使いこなす兵士の育成に革命をもたらした。 絵に描かれたこの訓練シーンは、その時代の生き残りをかけた切迫感と緊張を見事に表現している。訓練の過酷さは多くの犠牲を生んだが、生き残った者は戦場での精鋭となり、長篠の戦いで武田騎馬隊を撃破する大きな力となった。 しかし、その成功と引き換えに、この訓練が再び行われることはなかった。絵からは、時代を超えた武将たちの苦悩と、戦略的な決断が伝わってくる。 民明書房刊『振返の決闘:火縄銃と生死を賭けた戦国の訓練法』より。