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ケーキと巫女さん妹ら
「この出会いに感謝を。人々とこのお店に幸運が訪れんことを」 オシャレなカフェに入った修道女が神に祈りをささげる。 幸運の女神の巫女だ。 幸運神は、人々のかかわりの中で幸せをもとめ、他人も自分も幸せになることを宗旨としている。 そのため、信仰者は多く商人や一般市民は勿論、はたや運不運に敏感な、兵士やばくち打ちなどにも信仰者がいる。 様々な種族によって成り立ち様々な交流がある、この国の国教といってよく、幸運心の神官や巫女は一定の敬意をもって歓迎されるべき存在だ。 正体は、変装した盗賊にして新聞記者のダキニラだが。 「巫女様。私の娘に祝福を願ってくださいませ」 連れ立って彼女の前に現れた母娘に。 「幸運の女神様。この愛らしい娘にささやかな幸運を」 微笑みながらダキニラの4歳ぐらいの童女の頭に触れると、その手がかすかに光る。 実は、ダキニラは本当は本物の神官なので、幸運の女神の奇跡を扱える。 もっとも、この場合の奇跡は本当にささやかなものだが。 「お嬢ちゃん、よかったな。飴ををあげるよ」 通りかかった店員が、童女に飴を握らせる。 頭を下げて出ていく母娘を微笑みながら見送ったダキニラは、店の中をさりげなく見渡す。 奥の方には彼女の兄であるオークのゴルドンが、貴族と見える若い女性とお茶をしており、 別の位置には、二人の若い女性がテーブルについて、同じくケーキを美味しそうに食べている。 (バレバレだっての。シルビアさんの変装) 二人の女性のうちの一人は、彼女の異父姉にあたるシルビアだ。 魔法で変装しても、しぐさや態度が変わっていなければ、盗賊の目はごまかせない。 もう一人はオークの女性兵士、その上戦の神の神官らしい。 こちらは、オークの美女と言うだけでやたら目立つ。 もちろん武装しているし神官だ。 ダキニラよりも、物珍しさからかさらに注目を浴びている。 ダキニラは、注目のオークの神官戦士、ゴルドンの異母妹であるグレドーラの情報をつかんでいた。 盗賊ならではの耳の速さだ。 (それにしても、ここにも、もう一人妹がいることを忘れていないかしら) と、そこに……。 「尼さん。お布施だよ。あの二人に幸運を願ってやってくれねーか」 ケーキの皿をもったエルフ、ブロントが現れた。 「そっか、あなたは(盗賊の)心得があるからね」 盗賊同士だったら、変装を見破ったり、ひそかに情報をやり取りすることもできる。 もっとも、ブロントの盗賊のスキルは心得ぐらいだが。 「そうだね。女神よ。異なる血の出会いに幸あらんことを」 ダキニラは、微笑みながら、幸運の女神に願った。