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お宝はどの箱に?

「へへへ、こんな備えじゃ、あたしにとっては野原を歩くのと同じだよ」 貴族の屋敷に若い娘の姿がおどる。 毛皮に覆われた三角形の耳にふさふさの尻尾。 狐の獣人だ。 動きやすそうな皮鎧に、ぴったりした服にミニスカート。 何やら、工具に似たものが詰まった袋を腰につけている。 どうやらこの獣人の少女は盗賊らしい。 貴族の館という事で、それなりの使用人や警備、警報装置などがあるはずなのに、無人の野を抜けるがごとくにすいすいと歩いていく。 「おっと、ここだね。」 主人の執務室らしき部屋に入ると、素早く室内を物色し始める。 「たぶんこれかな」 獣人の娘、ダキニラは、シーフとしての嗅覚で、お宝が入った箱を選び出す。 「ふーん、なかなか凝ったカギだけど……」 宝箱?の前に座り込んでシーフツールで解錠を試みるダキニラ。 勿論、事前に罠のチェックも忘れない。 ほどなく鍵が開いて中身が明らかになる。 「やったー、お宝だ!!、って違う。今日の獲物は別だった」 箱の中には、光り輝く金貨や宝石が入ったらしい小箱があったが、今日の目的はそれではなかった。 盗賊の嗅覚が、より一般的なお宝に反応してしまった。 「すると、やっぱりこっちかな」 ダキニラは改めて執務室のデスク周りを探すと、簡素だけどつくりのいい木箱が見つかった。 「えっ、なっ、なに。やけに頑丈なカギが……」 思ったよりも精巧かつ頑丈な錠前でなかなか開けられない。 失敗の気配を感じ取って、ダキニラは思わず神に祈った。 と、その瞬間、鍵穴に突っ込んでいたピックがずれて、奥に差し込まれる。 (幸運の神さま。感謝だよ) 錠前ははかすかな金属音を発して解除された。 中には古びた紙束が入っていた。 どうやら音符が描かれているから楽譜らしい。 「ふーん、なんか古いってことと、大事にされてたのは解るけど。これは読めないなあ~」 盗賊でありギルドメンバーでもあるダキニラは、様々なことを教え込まれてはいるが、さすがに音楽の素養は含まれていない。 「まあ、かあ……、アーゼリンの姉御ならわかるんだろうね」 ダキニラは、楽譜を懐にしまうと、あらかじめ渡されていたも偽物とすり替える。 そして、ふたを閉めたのち、最初と同じように鍵をかけなおした。 「それじゃあ、明日の三面記事に載らない事を神様に祈るわ。 もしかして私が自分で取材するかもね」 盗賊ギルド員にして、新聞社の記者、さらに幸運神の神官でもあるダキニラは、自分の神に祈りを捧げながら貴族の館を後にした。

さかいきしお

コメント (2)

binbin yea
2023年12月01日 12時57分

さかいきしお

2023年12月01日 13時09分

bonkotu3
2023年12月01日 08時41分

さかいきしお

2023年12月01日 08時46分

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