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理想のエルフ様
「お母様、ほんとうにこっちで合っているのですか」 ハーフエルフの魔術師の少女が、先頭を歩くレンジャー風の格好をしたダークエルフに話しかけた。 「ああ……」 先頭のダークエルフ、ハーフエルフよりは年上に、だが十分少女の見た目なのだが、母と呼ばれたダークエルフが答える。 ハーフエルフの後ろには、頑丈な板金鎧に身を包んだ、屈強な戦士が続いている。 オークと見間違うばかりの巨体、というか、角が生えていて牙も覗いているからオークなのだろうが、 その顔立ちは、オークにしては整っており、強面の人間と言われれば納得するかもしれない。 「ああ、やっと、エルフの長老様に会えるのね。 きっと、威厳と蓄積された知性を感じさせながらも、見た目も物腰も美しくて優雅な男性エルフに違いないわ」 ハーフエルフの少女は、だらしない顔でにへらにへらと笑いながらぶつぶつ呟く。 どうやら、頭の中には理想の男性エルフ像が浮かんでいるらしい。 「シルビアよ。エルフに過度な幻想を抱くでないぞ。お主や母者もエルフの血は引いておるのだから、似たような物だとわかるであろうが」 オークの戦士は、オークとは思えないほど、理知的な表情と言葉でたしなめる。 「気安く呼ばないでよ!お母様は特別!!それに、あんたこそ、私のオークの予想をぶっ壊してるわよ!!」 だらしない顔を、今度はゆがめてオークに食って掛かるハーフエルフ。 黙っていれば、銀色の髪と、褐色かかったきめの細かい肌、華奢な体つきに、大きな瞳と、なかなかの美少女なのだが。 「……、妹よ。エルフにしろ、人間にしろ、若い娘はもう少し、しとやかなものだ。オークの女兵士も礼儀正しいぞ」 「えっ、なっ、なによ~、……」 妹と呼ばれたからには、オークが兄になるはずなのだが、なぜかそのことに反発するでもなく、ハーフエルフの妹は顔を赤らめてしおらしくなる。 「それで、母者、道にまよったのか」 「ああ……」 まったく表情を変えずに答える母親に 「こっ、この!!ポンコツダークエルフ!!」 ハーフエルフは可愛いらしい口から悪態をつくのだった。 「んだあ、そこさおるんは、アーゼリンだべかぁ」 そこに、森の中をすり抜けるように男性の声が届く ハーフエルフは慌てて、オークはゆっくりと声の主を探す。 ダークエルフは、ボケっとしたままだ。 「セリオン……」 ダークエルフがつーっと視線を動かすとそこに湧くように人影が現れた。 「うっうわきっ、きゃあ~」 そこにいたのは、中年に見えるが十分に美しく、優雅に見える、男性エルフだった。 なぜか、ふんどし一丁で、マントだけを羽織り、ムキムキな筋肉を誇示していていたが……。 「おめ、また道さまよっていただか!?」 優雅で美しい声とは裏腹に、やけに訛りが強い 「なっ、ななな、なに!!この変態エルフ!!」 ふんどし一丁マント姿で、なぜかしっかり武装はしている点がより脅威度を挙げている。 「道に迷ってなどいない。腹が減ったので食い物を探していたのだ……」 やかましい娘のことなど放っておいて、しれっと答えるダークエルフ。 「おめ、村さあ、こっから4里は離れているだよ。腹へってんなら、おらさあ弁当やらあ~」 そこで、変態、もとい中年エルフはハーフエルフに向き直る。 「すまねえのお。おいは、熊さ狩ってて、ばらして(解体)とこだっだけえ、こんななりなのは勘弁してけろ。 もしや、おんしら、アゼリンさ子供か?」 アゼリン、母親のダークエルフの名前らしい。 「あんときも~、アゼリンさあ、食い倒れておっての~。おめの子さ産んでやるから、食い物よこせって、言うけえ、ぶったまげたもんじゃ~」 「ふっ、てれるな。セリオン」 中年エルフセリオンの暴露話に、ダークエルフは恥ずかしがるどころか、いささか得意げに鼻で笑った。 「ほめてないわよ!!昔からそんなこと言ってたの!!。このポンコツ!!」 「おんや~口が悪いの~。めんこいオコジョ(かわいこちゃん)、おんし~、よかとこの娘ごかいの~。お転婆すぎると、嫁さいけへんぞ~」 「お、大きなお世話……、ですよ……」 反論しようとするが、ただ者ではない雰囲気は感じ取ったのか、ハーフエルフは尻すごみに呟く。 ハーフエルフには優し気な目を向けたが、一転、オークに対しては厳しさを取り戻した視線を向ける。 「そんで、オークのよか二歳(たくましい若者)。おまは、なんじゃね」 「お初にお目にかかる。エルフの親父(長老)殿……、オークの親父からの言づけて参った」 「え~!!」 ハーフエルフの少女が、目をぐるぐるさせて頭を抱える 「わっ、わたしのエルフ像が~!!」