謹呈
仕事を終えて自宅に帰ってくると、玄葉が部屋から顔を出し、何も言わずに虫けらを見るような視線を向けてきました。いったい何があったと言うのでしょうか。首をひねりながら自室に向かい、ドアを開けた瞬間ありえないものが目に飛び込んできました。 「あ、お帰りなさ~い・・・桜一文字花梨(さくらいちもんじかりん)で~す。えっと、ハッピーサマークリスマス・・・なんて、えへ」 金剛院家のメイドさんである桜一文字さんが、ミニスカサンタ服を着て、その上からロープで縛られて私のベッドの上に転がされているのでした。しかも下着やらが色々と見えてしまっている状態で。 「え~とですね・・・まずは机の上のお手紙を読んで下さい」 手紙は晶さんからでした。中身に目を通すと、先日のウルフカットのイタズラの一件で、『桜一文字さんへのお仕置き』と『私に珍妙な髪型を見せてしまったお詫び』という事で、今夜一晩、桜一文字さんを好きにしていいと書いてありました。なるほど、玄葉が私を冷ややかな目で見るわけです。私は頭を抱えました。 「あの~、それでですね・・・まず縄をほどいて欲しいな~っていうのと、できればえちちな事はご勘弁いただけないかな~・・・なんて、ですね、はい」 ほどいて欲しいと言われても、これだけ縛られているとどこから手を付けていいやら分かりません。しかし、このままにもしておけません。どこからほどけばいいのか桜一文字さんに聞いてみました。 「あ、結び目はこの胸の谷間に挟まってるので、まずそこをほどかないとですかね~・・・」 桜一文字さんはモジモジと身体を揺すります。そんな真似ができるほど女の子に慣れている訳ではない私は、ほどくのは諦めてハサミでロープを切ってあげました。 「早渚さんは紳士ですね~。え~と、それで今夜は何をご奉仕しましょうか・・・?添い寝くらいなら・・・アリ、ですよ?」 ・・・私は、桜一文字さんに今日の夕食作りをお願いしました。寝床はゲストルームに行ってもらいました。色々見てしまった以上、一緒の部屋に寝たりしたら、我慢できる自信は無かったもので。 ※翌日、桜一文字さんを金剛院家へ送っていったら、晶さんからこの一件は私の理性を試すハニートラップだったとタネ明かしされました。対応次第で今後の関係を見直すように晶さんのお父さんから言われたそうです。桜一文字さんも了承済みで、しかも彼女は縄抜けの技術を持っていて、あの程度なら自力で外せるそうです。最初から全部お芝居だったわけですね。もちろん結果は合格。自分がヘタレで良かったと思いました。