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メイドと料理と戦巫女
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シルビアに誘われて、食事に出かけたグレドーラは、結構立派な屋敷の食堂でいぶかし気に座っている。 いつものオークの戦士風に着崩したファッションではない。 戦の神の女性神官として、白いローブに聖印を着けた正装を身にまとっている。 周りには、若手の、しかしそれなりに腕が立ちそうな冒険者らしき者たちも集っている。 「あっ、お父様。ご無沙汰しておりました。戻ってまいりましたわ」 シルビアが立ち上がって父親を出迎える。 「あっ、あなたは、『只の剣士』様!?」 グレドーラは、入ってきた中年貴族をみて、彼につけられた冒険者内での称号を思わず口走った。 「うん、僕は腕力も強くない。魔法も使えない。勉強も嫌いだった。 だからずーっと一人で剣を振るっていたんだけどね。 いつの間にかそう呼ばれるようになったね。 本当に、剣以外に全く使えない、只の剣士なんだけどね」 中年貴族は、飄々とした表情で答える。 簡単にいっているが、冒険者は、戦士や、魔法使い、盗賊、賢者など様々な能力や、メンバーを、使い分け力を合わせて仕事をこなす。 剣だけしか使わない、という冒険者は少数だし、それで生き残り実績を残すことは難しいことだ。 見た目は育ちのよさそうな、飄げた中年貴族だが、かれは冒険者ギルト、いや、この国の戦士・剣士・騎士の筆頭と呼ばれるほどの存在だ。 高位の貴族だという噂があるが、この屋敷や物腰や服装を見る限り、事実だろう。 「いや~、僕はお城や貴族の集まりでは、身の置き場がなくてさ。 若い子たちとこうやって触れ合う事ができると楽しいね~」 と、そこに、若いメイドがやってきて、つっと中年貴族の横に並ぶ。 一瞬、グレドーラと視線が合う。 「この娘もね、君たちと同じ年ごろかな。 彼女僕のお母さんの実家の娘で、僕の従妹に当たるんだ。 この料理、彼女が作ったんだよ。」 集まった若者たちが感嘆と称賛のどよめきを挙げる。 グレドーラは、中年貴族が紹介したメイドを見て。 (正面から立ち向かうだけが戦いではない。 自分の持てるすべての手管を用い、つてや仲間を集って強敵に打ち勝つ道を選ぶ。 それもまた強さか) 「貴様は、自分の強さ、弱さを知っているというのか。 見定めさせて頂こう」 戦巫女グレドーラは小声でつぶやいた。 見定めるのは、眼力によってか、胃袋によってかは定かでないが。