異世界への旅

「この旅の扉に一歩を踏み入れれば、異世界への旅が始まるのです。」 怪しげなローブを被った女が、メガネを光らせながら言う。 「参りましょう。皆さま、心の準備はよろしいですか。よろしい。ゆっくり息をすって、１０数えて……。 ・・・・・・。 はい。目を開けてくださいね……」 そこは夕日に照らされて黄金色に輝く丘の上であった。 丘の下には、きらめく王宮とその城下町が佇んでいる。 「さあ！！あなた方の旅が、あの夕日のごとく、輝かんことを！！」 「はーい、電気着けるよ」 御宅さんがお誕生日席に座る。 背後の壁には、御宅さんがコスプレしながら説明していた王都の映像が映されたままだ キャラクターが完成したので、ゲームマスターの舞台説明の後、いよいよプレイ開始だ。 「御宅さん、その格好寒くない？」 「えっ、私の心は熱くたぎっているわ？」 御宅さんは、わざわざ着替えた怪しい占い師のコスプレのままだった。 （御宅さん、ただ者ではない。 ただのオタクではないわね。 たかがゲームに、ここまで演出する熱意と行動力。 いえ、皆をその気にさせる動員力というのかしら。 プレゼン力、交渉力、そして影響力、扇動者として秀でていることも隠しようがないわね。） シルビア伍長は、ゲームを楽しみながらも冷徹に御宅さんを観察していた。 コロコロ・・・・・・ 「あっ、またクリティカルだ」 カキカキ 「ブロンコちゃんやるわね」 消し消し 「シルビアさん、一ゾロ１０回目だよ。運悪すぎ……」 パラパラ 「えっ、このサイコロおかしくない？」 でもやっぱり、シルビア伍長も楽しそうだった。