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魔法と光る円盤と
「光る円盤ですか……」 ダークエルフの吟遊詩人と、ハーフエルフの賢者・魔術師が酒場で聞き込みをしている。 騎乗兵イザベラが襲撃された件について、調査をしているのだが、一向に要領を得ない。 「ああ、他に変わった事と言われてもな。魔族なんて目立つだろうから、いたんなら、誰かが見ているはずだが」 酒場には旅人他、町の住民、近隣の村の農民等が立ち寄るので、噂話には事欠かない。 酒場のマスターは下手な衛兵よりも事情に通じているものだ。 素直に話してくれるとは限らないが。 アーゼリンが一曲歌うと、割とすんなり話してくれた。 飛んできたおひねりで、酒を多めに注文することも忘れていないが。 それで出てきた話が、あの夕暮れ時、峠の稜線辺りに、光る円盤状の物を見たという噂話だった。 「なにかの、魔法でしょうか」 テーブルに座ると、ハーフエルフの魔術師シルビアが、母親であるアーゼリンに問いかける。 シルビアは魔術師にして賢者、アーゼリンは精霊使いでもある。 系統は違うが、それぞれ魔法に習熟している。 ある種の魔法は、使用する時に発光現象が起きることがある。 「テレポート(転移)でしょうか・・・・・・」 そう言いながら、シルビアはそれはあり得ないだろうと思う。 テレポートはかなり高度な魔法で、シルビアもまだ使用できない。 他者にかけることもできるが、使い捨てに近い魔族の兵士たちに、何体も同時にかけるにはコストがかかりすぎる。 アーゼリンは、返事をしない。 「聞いたことがある・・・・・・」 ボケっとしているのかと思ったら、考え込んでいたらしい。 それから、アーゼリンは低い声で謡いだした。 「かの まが神は 偉大なり 遠くはなれし かの地へと われらの兵(つわもの) はこびけり ひかりかがやく 円たての ふちに つわもの ふみいれば その身は かのちに はこばれり 万里の ながき しろかべも ふかくてひろい 大海も かれらを はばむ こと ならず」 恐るべき能力をもった魔神(デーモン)の伝承を伝える、不思議な歌声は、シルビアの耳から頭にしみわたり、ある記憶を呼び起こした。 「ディメンションゲート・・・・・・」 遠く離れた空間と空間を自由につなぎ、行き来が可能な光の門を作る。 その門は、好きな場所に、千の単位の軍勢を送り込むことも可能だという。 おとぎ話ぐらいでしか聞かない魔法。 それを、使いこなすものがいる。 魔術師にして賢者であるシルビアは、その予想に戦慄を覚えた。