翡翠の瞳に映る未来

ガラスの壁に映る自分の姿を見つめながら、私は深く息を吐きました。翡翠色の髪は光の反射を受けて、まるで水面のように揺らぎます。編み込まれた三つ編みが肩に寄り添い、黒光りするジャケットが薄明かりの中で鈍く輝いています。制服のようでいて戦闘服のようでもあるそのデザインには、私の知らない過去が刻まれているのでしょう。それを知る術は、今のところありません。 背後には不気味な機械音が響きます。金属の擦れる音、低く唸るエンジン音。そして、窓の外には雨が降りしきる都市の光景。無数のホログラム広告が空中に浮かび、行き交うドローンの光が乱反射して、夜空はカラフルなノイズで埋め尽くされています。その光景を眺めていると、自分がここにいる理由を忘れてしまいそうになります。 私の名前はルナ。たぶん。いや、本当の名前なのかもわかりません。それは、彼がくれた名前です。出会ったのは三日前、このビルの地下にある廃棄されたラボでのことでした。追っ手から隠れ、出口を探しているとき、彼が突然現れたのです。銀髪の青年で、瞳には奇妙なほど冷静さと優しさが共存していました。「君は記憶を消されているんだ。名前も、本当の姿も。それを取り戻したいのなら、俺について来い」とだけ言い残し、私に手を差し伸べました。 正直、なぜ信じたのかわかりません。でも、その手がやけに温かくて、何かに飢えていた私は、無意識に掴んでしまいました。それ以来、彼と一緒に行動しています。 「ルナ、集中して。いつまでも外を見ている余裕はない」背後から彼の声がします。振り返ると、彼は小型の端末を操作しながら、こちらをちらりと見ました。その視線に少しだけ苛立ちを覚えます。「あなたはいつもそう。何を考えているのか、何を見ているのか、全然教えてくれないじゃない。」そう言うと、彼は一瞬驚いた表情を浮かべてから、笑いました。「君に教える必要があるなら教える。でも、まず君自身が自分を理解しなきゃいけない。」 その言葉が、胸に刺さります。私は誰なのか。なぜ追われているのか。そして、この奇妙に身体に馴染む服が、何を意味するのか。 記憶をたどる糸口は、都市の中枢データタワーにあります。そこには、私のすべての情報が保存されているというのです。行く手には無数のセキュリティドローンや武装ガードが待ち受けています。それでも、私は進むしかありません。 「ねえ、もし私が……人間じゃなかったら、どうする？」ふと、問いかけました。彼は端末を閉じ、真剣な眼差しで私を見つめます。「それがどうした？君が何者であろうと、俺には関係ない。ただ、君が君であるなら、それだけでいい。」 心が少しだけ温かくなるのを感じました。でも、それと同時に、どこかに暗い影が残ります。本当にそれだけでいいの？私が、もし誰かのコピーや作り物であっても？ タワーに到着したとき、私は銃を手にしていました。黒い金属製のそれは、妙に私の手に馴染みました。何度も使ったことがあるような感覚です。「準備はいいか？」彼が尋ねます。「ええ。行くわ。」短く答えた瞬間、センサーが私たちを感知し、警報が鳴り響きました。 銃声が響き、ドローンの光が乱舞する中で、私たちは突き進みます。すべての敵を振り切り、データタワーの中心部にたどり着いたとき、そこには一台の端末が静かに佇んでいました。その画面に触れると、私の目の前に無数のデータが現れます。 真実を知る準備ができているかどうか、自分でもわかりません。でも、知りたいという気持ちは抑えられませんでした。端末に表示された「ルナ・プロトタイプ01」という言葉を見つめながら、私は息をのみます。そして、彼の顔をちらりと見ました。「どうする？」彼が尋ねます。 「私は、私が選ぶ未来を生きる。」そう言いながら、私は画面に手を伸ばしました。その先に何があるのかはわからないけれど、少なくとも、私は自分で選んだ道を進むのです。 都市の外から光が差し込み、雨が止んだことを知らせるようにタワーを照らしました。それは、まるで未来への希望を象徴しているかのようでした。