碧髪の光刃
私はレイカ。 人々は私を、異形の闇に抗う「光刃の使い手」と呼びます。でも、本当の私はただの田舎の鍛冶屋の娘でした。この光剣を手にするまでは──。 朝日が差し込む瓦礫の街、瓦解した建物の影を縫うように駆け抜けます。私の碧色の髪は風を切り、編み込んだ三つ編みが背中で揺れるのを感じました。この髪は幼いころからのトレードマークであり、かつては「空に溶ける青」と兄に笑われたものです。でも今は、この青が敵に見つからぬように隠れることすらできない厄介な目印になっています。 光剣を握る右手には、緊張で汗が滲んでいました。刃先からほとばしる淡い光が通路の薄暗がりを照らし、壁に反射して青白い光の残像を描きます。剣のエネルギーが絶えずうなりを上げるたび、私は胸の中にわずかな希望と恐怖を抱えます。この剣は人間の力を超えた代物。けれど扱いを誤れば、持ち主さえも飲み込む暴力的なものだと教えられたからです。 制服のような濃紺の衣装には金色の装飾が施され、肩から腰にかけて走る縄状の飾りは、かつての騎士団の伝統を彷彿とさせます。これは私が訓練を受けた孤児院で与えられたもの。生き残りをかけた闘技場の勝者に贈られる唯一の証です。「栄光」という名の重荷を背負う度に、私の心はどこか冷たくなるのです。 背後から聞こえる足音が次第に近づいてきました。あの忌まわしい影が迫ってきたのです。私は振り返ることなく、足を速め、狭い路地を曲がりました。その瞬間、通りの終わりに光が差し込み、私の顔に温かい輝きが降り注ぎます。光に包まれた先には広場が広がり、瓦礫の中に立つ巨大な影──私の兄、カイルがいました。 「レイカ、もう逃げるな!」 兄の叫び声が耳を打ちます。彼の背後には禍々しい闇の力が渦巻き、まるで彼を操る黒い鎖のようです。かつては穏やかだった瞳は、今や冷たい光を宿し、私を見下ろしています。 「兄さん! 目を覚まして!」 叫んでも届きません。分かっています。これは彼の意思ではない。けれど、私は彼を救うためにここに来たのです。この光剣が宿す力が、闇を打ち払う唯一の鍵だと信じて。 兄との対峙が始まりました。私の剣は光をまとい、彼の黒い大剣と激しくぶつかり合います。衝撃で飛び散る青白い火花が、瓦礫の影に一瞬の昼を作り出します。兄の動きは鋭く、重く、私の全身に響くほどの力です。それでも、私は諦めるわけにはいきません。 「どうしてこんな道を選んだの!」 問いかける声が震えます。兄は何も答えません。ただ冷酷に剣を振るうだけです。でも、私はその沈黙の奥に小さな葛藤を見ました。それは兄の心が完全に闇に飲まれていない証拠でした。 「あなたを取り戻す! 絶対に!」 私は心の奥底に眠る恐怖を押し殺し、全ての力を剣に込めました。その瞬間、剣がいつもより強い光を放ち、眩い閃光が広場全体を包みました。光は兄の闇を焼き尽くし、彼を縛る黒い鎖を断ち切ったのです。 光が収まると、兄は膝をつき、かつての優しい顔を取り戻していました。 「……レイカ、すまない」 震える声で兄が言いました。私は彼に駆け寄り、その背中に手を伸ばしました。 「帰ろう、兄さん。一緒に。」 私たちは崩れた広場に立ち上がり、朝日が再び街を照らすのを見上げました。その光は、これから始まる新たな道を示すかのように暖かく優しいものでした。 私の戦いはこれで終わりではありません。でも、この剣と信念を持つ限り、どんな闇も恐れはしません。なぜなら私は、誰よりも強い「光刃の使い手」なのですから。