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戦と平和と幸運と
「デルちゃん、すまないな。」 野戦病院のテントで、傷病兵がドワーフの少女に言う」 「ううん、私にはこれしかできないから」 緑色の髪の人間の少女に見える、実は彼女はドワーフだ。ドワーフにしてもまだ少女には変わらないが。 デリシア、ドワーフの女性兵士にして炊事兵である。 「それにしても、驚いたな。あんなもん、食えたもんじゃねーと思っていたが、案外うまいものだな」 物資が限られて、食料が枯渇していく中、デリシアは野山に生える草木や、根菜などから巧みに食料を調達していた。 それも、見た目も、味もそれなりの物に見えるようにして。 「それじゃあ、あちらさんの方にも配ってくるね」 「おっ、おい、別に奴らにそんな苦労して集めた飯を‥‥‥」 傷病兵が、デリシアを呼び止める。 「食事に関しては平等だよ。人間美味しいものをちゃんと食べて、分かち合えるのならば、戦争なんか起きないのにね」 彼女は、捕虜の傷病兵にも分け隔てなく食料を配給していた。 正規の食料など等に尽きている。 何らかの手段と努力により調達していた貴重な食料をだ。 「ああ……、そうだな。」 それを知っている傷病兵もそれ以上、とめはしなかった。 この野戦病院はすでに見捨てられている。 傷病兵以外の人員も何らかの傷を負っていて、デリシアも例外ではない。 『デリシア、ありがとう』 デリシアに異国の言葉はわからない。 だけど、 「ご飯の美味しさは世界共通だよね」 『デリシア、わが方の部隊が迫っているはずだ。君は撤退したほうが良い』 「‥‥‥、私も逝くね。これでも軍人だからね」 『よせ。君が死ぬことは無い!!」 『君は料理人として生きるべきだ』 重傷をおった捕虜達は声を張り上げるが。 「今度、あなたたちの国の料理を食べたいね」 緑髪の少女は儚げな笑みを浮かべるとテントを出て行った。 「デリシア!!下がれ!!飯なんてどうでもいい!!」 砲火が飛び交う戦場で食事を運び続けるデリシア。 「私はこれしかできないから!!」 捕虜の壕にも駆け寄って。 「あなた達!!無事!? もうすぐけりはつくだろうけど。食べてね」 再び戦場に駆け出す少女の頭上に。 キューン!! 『迫撃弾!!伏せろ!!デリシア!!』 足元で起こった爆発と強烈な閃光に。 (もっと、いろんな人と、いろんな料理を、食べたかったな‥‥‥) 『打ち方やめ!!うつな!!』 『やめろ!!』 捕虜たちの悲痛な声が重なり合い。 【武器を 収めよ】 圧倒的な存在感を誇る声が戦場全ての兵士の頭に響き渡った。 砲声がやんだ。 【勇者の喪に服するは 戦士の務めなり】 猛々しさの中にも優しさを感じる声だった。 【戦に続くは 和の世なり】 よく似た、だけど対になるように異なった声が続く。 【幸せは分かち合うもの 喪はともに服するもの】 慈愛に満ちた声が響き渡る。 【汝ら小さき勇者を失い不運 我らが末妹を得たりし運に置き換えん】 「かようにして、戦神、調和神、幸運神の妹神として、最も若き女神、デリシア神が降誕されたのだ」 自信満々に詩を交えながら語るアーゼリンを。 「お母様、その話本当ですか~?」 ハーフエルフの娘が疑わし気に見つめる。 「本当だぞ。何せ私は、デリシア様の最期の、いや最初の食事をふるまわれたのだからな」 「じゃあ、嘘じゃないですか!!」 「本当だよ‥‥‥」 そんなにぎやかな母子の様子に、近くで見聞きしていた、緑髪の神官戦士が呟いた。