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七月の初め、夕暮れ時。まだ日中の暑さが残る空気が、花火の煙とともに揺らいでいた。 カナは祭りの人ごみの中で、手に持った線香花火に見とれていた。彼女の髪はゆるく結ばれ、そよ風がその一束をくすぐった。花火の灯りが彼女の顔を照らし、その笑顔はまるで夏の訪れを祝うかのようだった。 「綺麗だね」 と彼女は言った。声は子どものようにはしゃいでいたが、目には大人の落ち着きが宿っていた。カナはこの瞬間が好きだった。夏の始まりを告げる祭りの夜、誰もが少しは子どもに戻れる魔法の時間。 線香花火は短い。けれどその瞬間の輝きは、長くカナの心に残る。彼女はもう一度火をつけると、夜空に向かって小さな火の粉を飛ばした。その光は、星のように一瞬で消えたが、その一瞬が、夏の長い日々を彩る思い出となった。 「ほら、夏が始まるよ」と彼女はつぶやきながら、次の花火に向かって歩き始めた。 夏はまだ始まったばかりだ。その熱い日々が、これからどんな物語を彼女にもたらすのだろうか。