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夢と現実の狭間で
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「ここはどこかしら」 ブロント少尉は、石造りの謎の建物の中を歩いている。 「それに……、おかしいわね。日本じゃ銃は持ち歩かないのに」 薄靄の中で目覚めた時、なぜだか少尉は弾帯をはめて拳銃を装備していた。 記憶では昨日は、日本の安全な基地の宿舎でベットに入ったはずだけど。 銃の管理は日本では極めて厳しいから、都市部の基地で武装したまま就寝するなどあり得ない。 だがそこで、見知った人影を見かけたので、ブロント少尉は安心した。 銀髪のロングヘアー、なぜかバスローブのようなものを羽織っているが。 「シルビア『伍長』!!」 掛けられた声に、銀髪の主が驚いたように振り返る。 「あら、ブロント。どうしたのよ。『准導師』とか呼ぶなんて」 振り返った人影は、シルビア伍長ではなかった。 髪は同じだが、耳が尖っている!! それに、伍長と呼んだのに、導師? もしかして言葉が違う? 「どっ、どうゆうこと。あなた、伍長、ソフィアじゃないわね!!」 シルビア伍長のファーストネームを呼んで詰め寄るブロント少尉。 「ちょっちょ!!ち、近い」 銀髪のエルフ、シルビアに突き飛ばされる、ブロント少尉。 「あなたこそ、ブロントじゃない!!魔族の変装ね!!そっくりに化けたってわかるよ!!」 見透かすように睨みつけてくるハーフエルフ。 少尉は、いつの間にかに、彼女がやけに大きな装飾された立派な杖を持っていることに気付いた。 少尉もいつでも拳銃を向けられるように身構える。 「二人とも。そこまでだ」 そこに、割ってはいる女性の声。 低いが良く響き渡り、同時に伸びやかさと美しさ、優しさを含んでいる声は。 「お母様!!」 「えっ、ダークエルフ?」 ダークエルフの美女は、ゆっくりと近づきながら言う。 「迷い子よ。悪い夢に惑わされているようだな」 「えっ、見た目はどう見てもブロントだけど。化けてんじゃないの?」 ダークエルフの母の言葉に、ハーフエルフが驚いて言う。 「えっ、夢・・・・・」 ダークエルフ、アーゼリンは頷きながら続ける。 「オーラが違う。彼女は女の子だぞ。夢の迷い子に見た目はあまり関係ない。 それに……、ナイトメア、悪夢の精霊の気配がある」 二人の疑問に答えるように語る。 「え~と、エルフさん?これは夢なんですか?」 エルフなどゲームの中でしか見たことがない(当たり前だが)、ブロント少尉は半信半疑だ。 銃をホルスターにしまいながら思う。この銃にこびりついた硝煙の匂いと冷たくて頼もしい温もりは本物としか思えない。 「意識だけ、眠っている間にどこかに飛んで、誰かに重なることはある。 他者の夢と重なることも。 夢は変幻自在だ。 貴方には自分のいつもの服装と武器に見えているかもしれないが」 アーゼリンはブロント少尉のしぐさが、スカートを履いた女性の物で、武器を扱う仕草にしても剣や杖とは違う事に気付いていた。 「悪夢の精霊は私が追い払っておく。 迷い子よ。あなたの世界で目覚めると良い・・・・・・。 アーゼリンの低く、どこか安堵を感じる声が優しい声が染み渡ると。 「ちょっと!!少尉!!いい加減に起きてください!!約束有るんでしょう」 ルームメイトの大声でたたき起こされた少尉は。 のっそりと起き上がると。 「ねえ、シルビア、いえ、ソフィア?」 「なっ、なんですか。気持ち悪いですね」 寝ぼけた目で、普段使わない呼び方をされて気味悪がる伍長に近寄ると。 「あいっ、たたた。何するんですか!!」 両手でシルビア伍長の耳を引っ張った。 (耳尖っていないわね) 少尉の呟きは誰にも聞こえなかったかもしれない。 そのころどこかで。 「夢見がすごく悪かったような。ブロントの女装を見たせいかしら……」 ハーフエルフの魔術師シルビアが、頭を抱えながらベットで起き上がっていた。 「なんだか耳が痛いような……」