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図書室ではお行儀よく
『只人(ヒューマン)やエルフ、オーク、ドワーフ等をまとめて人族とした場合、 人族と他種族との通婚の例は各国、各地域に多く伝わる』 シルビアは、まじめな顔で図書館で本を読み進めている。 ただなぜか、顔が真っ赤なのだが。本人は真面目な顔で通常を装っているつもりでも周囲にはバレバレだ。 『虎やクマといった動物と、あるいは一角獣・ドラゴンといった幻獣・魔獣種との通婚例もある』 思い当たることがあったのが、がぜん興味を引いた表情になる。 「ドラゴンは、卵生だったと思うけど。無理があるんじゃ」 『ただ、獣の姿と幻獣魔獣の身体構造、サイズ等は大きく違うため、交接の際に大きな障害になる。』 「キャッ!!」 そこまで読んで、シルビアは顔を赤らめ悲鳴を上げる。 「うるさいニャ」 なにか声が聞こえたので辺りを見渡すと、 幼児向けのスペースで、小さな子供が絵本を読んで、隣で黒い子猫が暇そうにあくびをしている。 首をかしげて、それでも読み進めるが。 『その場合、もとは人間だが動物に変身能力があるか、もしくは幻獣・魔獣に変身能力がある場合かどちらかになろう』 『人族と、それらは身体構造は勿論、種としても完全な別種のため、幻獣・魔獣の場合は、完全に人化する魔法に該当する能力を用いたことになる』 「ポリモルフ(完全変化)の魔法ね」 シェイプチェンジ(身体変身)の変身ではなく、自分・他者に掛けられる、解除しない限り永続的に続く変化の魔法である。 悪い魔法使いが、王子をカエルに変身させるなどと言って使うやつだ。 「じゃあ、タキザワさんも、完全に人族の女の子と同じように……」 そこまで言って、シルビアは、ゆでたクラーケンのように真っ赤になった。 (まったく、変なこと気にしているニャ。 好きな相手ができたら、おんなじ姿になるのは当たり前だニャ) 黒猫少女は、お友達の男の子と仲良く本を読みながら、頭の中で呟いた。 当然のことながら彼女の呟きはシルビアの耳には届かなかった