1 / 4
竜と絶景友人と
「わーすごーい~。高い~!!。お城のてっぺんからでもこんな景色見えないわ。」 背中の上で、年相応に興奮し喜びはしゃぐ、狐耳の密偵少女の様子に、東方竜は微笑む。 いかつい竜の顔のはずなのに、口のゆがみは微笑であるとみるものにはわかった。 「ありがとう、タキザワさん。でも……、どうして私をわざわざ背中に乗せてくれたの? 普通はしないんでしょ?」 この辺りは、さすがに盗賊ギルドの構成員だ。 見返り無しに人が善意、好意を寄せることはあまりない。 ただ、見返りが金銭や仕事だったらそれは別にかまわない。 厄介なのは……。 「わたしの身近ではあなたの様な方は貴重なのです。 アーゼリン様はよき友で優れた人物ですし、各神殿の方たちも高潔で立派な方ですが……」 苦笑しながら語るタキザワこと東方竜。 「ああ、なるほどね……」 タキザワが何を言いたいのか、察しがついた。 彼女の母親のアーゼリンは、天然な捉えどころがない浮世離れした性格だ。 各神殿のおえら様と交流があるとは聞くが、そんなおえら様と楽しい会話ができるとも思えない。 ダキニラ自身は、幸運神の神殿には実は所属していない。堅苦しい神殿のの約束事や行事にとらわれるのはごめんだ。幸運の女神はおおらかであらせられるので、信仰の形式にはこだわらないのだ。 それ故に、ダキニラは幸運神の神官と盗賊ギルド員という、希少な二足の草鞋を履けているのだ。 そんなダキニラにタキザワが求めることは。 ぶっちゃけ、タキザワは暇なのだろう。 竜の体は勿論、人間に化けても巫女の立場では、街に気ままに繰り出すこともできまい。 ダキニラは盗賊ギルドメンバーで新聞記者なので街の世情に詳しいし、神官でもあるから巫女や神殿関係の事情にも通じている。 「わかった。時々お土産持って、おもしろい話でもしに来るよ。なんなら、変装も手伝うから街に繰り出そう」 「ありがとうございます。ダキニラさん。その時はお願いしますね」 タキザワは、いかつい竜の顔でにっこりと微笑んだ。