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騎兵と妖精・鬼・天女

まだ年若い、女性の騎兵が、騎馬に乗って夜道を進んでいる。 夜間の移動は安全とはいいがたいが、この道は王都と、その周辺に住む各種族の集落をつなぐ街道で、それなりに整備されてところどころに街灯がある。 わざわざ、武装したうえで騎乗している彼女を襲う賊などほとんどいないだろう。 そんな油断があったのか。 突然、火のついた松明が目の前に投げ入れられ、何本もの矢が、馬の目の前の地面に突き刺さる。 「敵襲!!」 彼女の脳裏に、自分が届けた新聞の記事、魔族の襲撃について、が浮かび上がるのは、 炎と矢に驚いた馬が棹立ちになるのと同時だった。 「落ち着いて!!」 必死に騎馬を制御するが、引いていたもう一頭の馬は、狂乱して走り去ってしまった。 そのころ 「ほう、アーゼリンの姉御はそんなことを言ったのか。さすがだべ」 「ふっ、褒めても何も出ないぞ」 エルフの青年に、まんざらでもない口調で答えるダークエルフ、アーゼリン。 「褒めてないわよ。天然にもほどがあるわ」 呆れたようにあいの手を入れるのは、ハーフエルフの魔術師、シルビアだ。 「そういうな。母者は自然でおることによって、周りの変化を敏感に感じ取っておるのだ」 何やらおかしな一団だった。エルフの青年、ダークエルフの美女、ハーフエルフの魔術師、そして、オークの屈強な戦士。 オーク以外の3人はともかく、オークが同行しているのは珍しい。エルフ族とオークは基本、敵対までとは言わないが、仲は非常に悪くいつ騒動が起こってもおかしくないのだ。 なにやら、ダークエルフの失敗談を話しているのだが、ダークエルフは気にせず、オークはたしなめる、といったいつもの光景のようだ。 どうやら王都まで移動しているようだが、夜道は苦にならないようだ。 精霊使いは赤外線視の能力を持ち、エルフはすべからく精霊使いなので、人間より闇を恐れない。 ハーフエルフとオークは違うはずだが、身なりと物腰からすると、二人とも熟練の冒険者のようだ。 闇を補正する手段などいくらでもある、という事だろう。 「むっ!!」 「なんですか。トイレですか?」 いきなり何かに気づいたような声を上げた母親に、シルビアが問いかける。 「シィルちゃん、あんたもたいがいだな。ギャロップしている蹄の音だ。」 レンジャーでもある青年とアーゼリンは何かを一早く感じ取ったらしい。 「なっ、そっ、そうなの」 母の天然につられたかのような天然を発揮してしまい、シルビアが顔を赤らめて問い直す。 「夜道に馬を疾走させるなどありえない。誰か襲撃されたか」 ゴルドンが、冷静な声で分析する。 ほどなく、蹄の音が素人耳にも響くようになり、狂走した馬が街道の明かりに浮かび上がった。 「例の襲撃だべ、ありゃ、よく来る新聞配達のねーちゃんの馬だぞ」 乗り手はいないが、エルフの若者は、その馬に見覚えがあった。 「この地形だと……、襲撃されたのは、峠向こうの狭隘部分だな。騎馬だと脇に逃げ場がない。せり出した岩の上から射撃されたな。一頭だけ戻ってきたのなら、もう一頭は彼女と一緒に交戦中だ……」 」 アーゼリンがレンジャーの技能に基づいて、状況を分析した。 「我とブロントは地上から行く。シルビア、フライトで先行できるか」 「できるけど、だけど……」 ゴルドンの問いかけにシルビアは躊躇する。魔術師であるシルビアは近接戦闘の心得がなかった。 魔法使いが一人だけと突出することは避けねばならない。 「私一人ならば抱えて飛べるだろう。ゴルドンとブロントにも魔法の援護を」 「わかったわ!!」 冒険者として優秀なゴルドンとアーゼリンの指示に、シルビアは応じた。 「二人とも、ヘイスト(加速)をかけます。気を付けて」 「わかった」 「ゴルドン、おめーはこの辺りは詳しくないべ。俺が先に立つわ」 魔法の光を纏って二人が駆け出すと、シルビアは杖を構えなおす。 『マナよ!!地の井戸から身を解き放て!!浮遊!!』 『マナよ!!翼となりて空えと誘え!!飛行!!』 連続した詠唱を終えると、ダークエルフとハーフエルフの親子は、魔法の光を纏って黄昏の空に舞い上がった (ダメか……、竜騎士にはなれなかったか。それどころかまともな兵士にも) 魔族や魔物に囲まれながらも、彼女はまだ立っていた。 愛馬と共に、何体か敵を倒してはいるのだが、愛馬はすでに倒れ、彼女も手傷を追っている。 敵の魔族たちは10体は残っており、街道の狭隘部で囲まれて逃げ場もない。 一頭狂走した馬が、最寄りの宿場町にたどり着けば、異変を人々が察知するかもしれないが救援には間に合いそうもない。 巨大な魔族が目の前にたち、振りかぶった剣を振り下ろそうとする。 手傷をおった今、その重たい剣戟を受け止められる自信はなかった。 せめて、最後まで兵士らしく、目をそらさずに片手に持った剣を掲げたとき 『プロテクション!!』 森の中に、鈴を転がす様な少女の声が響き渡る。 魔族の剣戟は、何かに阻まれるかのように彼女の前で勢いをなくし、片手で弱々しく掲げた剣にはじかれる。 『ファイヤストーム!!』 続いて響いた、低くだが美しい女の声と共に、彼女を包囲していたデーモンの一角が炎に包まれる。 黒い肌のエルフと共に、天から舞い降りてきた少女を見て、彼女は思わず呟いた 「天女……」 魔法の光に輝く銀髪を風になびかせて、東洋風のローブを着たその姿は、彼女に東方の妖精を連想させた。 とその時、彼女の目の前にたった巨大な魔族が一刀両断に切り伏せられた。 『ヴァルキリージャビリン(戦乙女の槍)』 続いて、その隣にいた身軽そうな翼が生えた魔族に、光り輝く槍が突き刺さる。 「何とか間に合ったか……」 冷静な低い、地の底から響くような声の主を見たとき 「大丈夫か、騎兵殿……」 「ひぃいっー!!オニ~!!」 彼女は兵士にあるまじき絶叫を上げた。 「おいおい、助けてもらってそりゃあ、ねえべ」 森の木陰から、見知ったエルフの若者の姿を見たとき、命を救われたことを初めて実感した。

さかいきしお

コメント (4)

Hyde🌙RYOSHI🌹
2023年10月26日 00時35分

さかいきしお

2023年10月26日 00時36分

wanwanwan
2023年10月24日 13時31分

さかいきしお

2023年10月24日 13時44分

水戸ねばる
2023年10月24日 12時23分

さかいきしお

2023年10月24日 12時31分

bonkotu3
2023年10月24日 08時29分

さかいきしお

2023年10月24日 09時07分

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