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家族の墓参(※再掲載)
※画像の掲載順がおかしくなったので再掲載します。檻をみて旧掲載については削除いたします。 「ここにいたのか。勇夫」 墓前で祈りを捧げていると、声を掛けられる。 振り返ると、一人の提督が花束を抱えてこちらに歩いている来るところだった。 「叔父さん……」 提督は、おれの父方の叔父だった。 兄弟そろって海軍にはいって、今、海将補になっている。 「お前の噂は船の上まで届いてるぞ。なかなかの活躍ぶりのようだな」 「恐縮です……」 俺の家は代々海軍軍人だった 親父の兄弟も、俺の兄貴も。 「そろそろ戻ってくるつもりはないのか。兄もそれを望んでいるだろう」 「……」 叔父の兄貴、つまり俺の親父は今はすでに墓の下だ。 「それに、おまえは武夫の力になれるだろうしな」 俺の兄貴、武夫は士官学校を首席で卒業し、その後も優秀なキャリアを歩み続けた。 一般大学に進学し、陸軍に2等兵で入った俺とは大違いだ。 兄貴は、統合幕僚長は確実と言われていたが、今は……。 「陳情の合間に時間が取れたらしいぞ。もうすぐ来るだろう。」 スナイパーライフルのレチクルがゆっくりと墓地の景色をなぞっている。 そして、ある墓の前、二人の軍人がいるあたりで止まる。 軍人の一人、どちらかというと若い、陸軍の軍服を着たほうに吸い寄せられるように近づいていく。 銀髪のロングヘアーの少女が、迷彩服に目を包み木立の中に伏せている。 その手には、やけにごつい見た目の狙撃銃が握られている。 スコープを覗く表情は、容姿に比べるとやけに大人びてみえる。 「藤堂一族。開国後代々続く海軍軍人の一族……。 現役海将補をはじめ……、 政界に転向し、現、軍大臣も輩出する……」 呟きながら銃をかすかに動かす少女。 「例外は……、ブラックピース隊長のかれ。 そして、あの彼女の……。 動機的には十分かしら」 墓地で話し込む、陸軍軍人にレクチルを合わせようとし。 「アンジェラ!!」 スコープの視界を、金髪の髪が塞ぐ。 金髪の年若い少尉が、射手の斜線を塞ぐように立ちふさがったのだ。 隠そうとしているが、武装しているのが見て取れる。 その、幼さを感じさせながらも厳しい様子で周囲を睨みつける様子は、いつもの見知った表情とはかけ離れていた。 『……作戦中止……。発砲…禁じる……」 インカムから、焦った音声が飛び込んでくる。緊急の連絡にしては、やけにひび割れているし聞き取りづらい。 「引いたみたいね。彼女と撃ち合うわけにはいかないだろうからね」 そこで彼女は銃の安全装置をかけて立ち上がる。 「日本に縁が深い傭兵部隊の隊長を私怨で暗殺する。 理由は彼女に手を出したから。 動機としては信じる奴らもいるかもね。 なぜか現役海将と軍大臣の前でね。」 遠くにみえる、金髪ポニーテールの若い少尉は、周囲の殺気が消え去ったのがわかったのだろう。 表情から厳しさが消え、彼女の隊長を案ずる顔になった 風に揺れる赤いリコリス越しに、声をかけているのが見て取れる 「彼を守るのはあなたの役目よ。 アンジェ……」 銀髪の少女は普段は使わない、護衛対象のファーストネームを、愛称で呼びながらつぶやく。 「よくやったわ。助かった。私も、墓前で同士討ちはしたくないからね」 暗殺者への指令を盗聴しつつ、場合によっては、彼が撃たれる前に発砲する必要があった そこでさらに、自分に言い聞かせるように続ける。 「私の役目はあなたを守ること。あなたに手を出す者は許さないわ」 そこでふと気づいて言葉を切る。 「あっ、そういえば隊長はあなたに手を出したわね」 シルビア伍長は、いつも通り、口の端をニヤニヤさせながら笑うのだった。