夜に溶ける涙
静まり返った部屋の中、私は膝を抱えていた。薄いピンクのドット柄パジャマが、暗闇の中でかすかに目立つ。それは、子どもの頃から使っているもので、安心感を与えてくれるはずのものだった。でも今は、その布の柔らかさすら、何の慰めにもならなかった。 私の頬を伝う涙は、止めどなく流れ続ける。髪の毛は肩にふわりと落ち、ピンク色のカールがぼんやりと月明かりに照らされている。その光は優しいけれど、どこか冷たく、孤独を強調しているようにも感じた。ベッドの端に腰掛けた私は、まるでこの小さな部屋が世界から切り離された小宇宙のように思えた。 どうして、こんなに涙が溢れるのだろう。自分でも分からなかった。ただ胸の中に渦巻く重たい感情が、言葉にならない形で私を押し潰そうとしているのを感じる。親にも、友達にも、誰にも話せない。話したところで、この気持ちを理解してくれる人なんているのだろうか。 「誰か…気づいてよ…」 声に出してしまった瞬間、自分の声の震えに驚いた。こんなに弱くて、頼りない声を自分が持っているなんて知らなかった。瞼を閉じると、暗闇がますます広がっていく。その暗闇の中で、過去の記憶が浮かんでは消えていった。 学校での何気ない孤立感。みんなで笑い合う輪の外側に立つ自分。その場にいるのに、どこにも居場所がないように感じる瞬間。それが何度も何度も積み重なって、心に深い溝を作っていった。そして気づけば、誰にも頼れない自分がそこにいた。 涙がシーツに染み込み、冷たくなる感触がした。その感触さえも、自分がどれだけ孤独かを思い知らされる証のようだった。けれど、不意に胸の奥に小さな声が聞こえたような気がした。 「それでいいの?」 心の中の声は、私を責めているわけではなかった。ただ優しく問いかけているようだった。それはまるで、月明かりそのもののような、静かで冷静だけれど、どこか温かみを感じさせる声だった。その声がきっかけで、私は顔を上げた。 部屋の中は相変わらず静かで、私以外に誰もいない。それなのに、その問いかけに答えなければならない気がした。私は心の中でつぶやく。 「分からないよ。でも、何か変えたい。」 その言葉を自分で口にした瞬間、涙の流れが少しだけ止まった気がした。部屋の中の空気が少し軽くなったような錯覚を覚えた。もしかしたら、この涙は無駄じゃないのかもしれない。涙を流すことで、私は自分自身に向き合おうとしているのかもしれない。 ベッドサイドの机には、母が置いてくれた小さなカップがある。そこには、温かいミルクティーが注がれていた。いつの間に入ってきたのか、気づかなかった。でもその優しさに気づいた瞬間、胸がじんわりと温かくなった。 「ありがとう。」 心の中でそうつぶやき、私はカップを手に取った。その温もりが、私を現実に引き戻してくれるような気がした。涙を流して、少しだけ軽くなった心。まだ完全には癒えていないけれど、少なくとも次の一歩を踏み出せる気がした。 ミルクティーを一口飲むと、甘い香りが広がり、ほんの少し心がほぐれていく。机の上には、母の字で書かれたメモがあった。「明日はきっと良い日になるよ」。その短い言葉に、胸がじんとした。誰にも言えなかった孤独な気持ちを、母は気づいていたのかもしれない。 窓の外を見ると、夜空には満天の星が輝いていた。星明かりが部屋の中に淡い光を差し込み、涙で濡れた頬を静かに照らす。私はその光を見つめながら、少しだけ未来に希望を感じた。 月明かりが私の影を床に落とす。その影を見つめながら、私は決意した。少しずつでもいい。誰かに頼ること、自分を受け入れること、それを恐れずにやってみようと。そして、この涙の理由を、いつか自分自身で理解できるようになろうと。 夜は深く静かだけれど、その中に小さな希望の光があることを感じながら、私はそっと目を閉じた。