夢色の迷い道
私はルリといいます。この名前が私自身をどれほど表しているのか、それともただの飾りでしかないのか、そんなことを考えるのが好きです。でも、名前の意味を知るのは怖い気もします。だって、知ってしまったらそれに縛られる気がして。名前に込められた期待とか、誰かが望んだ私の姿とか、そんなものに押しつぶされたくないのです。 私の髪は長くて黒いけれど、光を受けると紫のような青のような色が混じる、不思議な輝きを見せます。濡れたような艶があり、それをよく褒められるけれど、私にとってはただの髪。風が吹くたびに勝手に乱れて、手で直すのが面倒なのです。肌は透き通るように白く、ほのかにピンクが差していて、誰かが「絵に描いたようだ」と言ったことがあります。でも絵と違って、この肌には触れることができます。だから私は、人間なんだと思います。おそらく。 私の服は、今日は特別に何も着ていません。そう聞いて驚く人もいるでしょう。でも、それは私がこの場所にいるからです。ここは現実の世界じゃないから、服を着る必要がないのです。壁紙のような背景には、白い唐草模様が浮かび上がっていて、どこか夢の中にいるような感覚を与えます。その模様は揺らめいているようにも見え、まるで風景が私を包み込むために息づいているみたいです。 ここは、私がよく訪れる「無の部屋」。現実世界に疲れると、私はこの場所に逃げてきます。現実と夢の境目が曖昧になるこの部屋では、私の心の奥底が反映されます。だからでしょうか、この部屋に色彩はほとんどありません。全体的に淡い色合いで、白と灰色が主役です。光がやわらかく広がっていて、私の顔や体に落ちる影さえも柔らかい。こうした色彩や照明は、私を安心させるのです。でも、安心しすぎると、ここから出るのが怖くなります。 この部屋にいるとき、私はよく考えます。「私は誰?」と。人々はよく私に何かを期待します。美しいとか、聡明だとか、優雅だとか。でも、その期待が私自身と一致するのかはわからないのです。それは私を喜ばせるものでもあるし、時に悲しませるものでもあります。まるで、私が私であることを許されない気がして。ここに来るのは、そういった重荷から解放されたいからかもしれません。 でも今日は、少し違います。この部屋が私を引き止めているように感じます。唐草模様が静かに揺れ、壁の向こうから何かを呼びかけている気がします。耳を澄ませても音は聞こえません。それでも、何かを感じるのです。私はその気配に吸い寄せられるように立ち上がり、壁にそっと手を当てました。冷たい感触。でも、それは本当に壁なのでしょうか。もしかすると、私が勝手に壁だと思い込んでいるだけなのかもしれません。 ふと、笑ってしまいました。私って変ですよね。こんなことを真剣に考えているなんて。でも、ここにいるときだけは、自分を嘘で飾らなくていいのです。たとえ、変だと思われても。たとえ、誰にも理解されなくても。この部屋は、私の心そのものだから。 壁に触れた手を離し、私はそっと目を閉じます。閉じた瞼の裏に広がるのは、私だけの星空。小さな星がいくつも瞬いていて、その一つ一つが私の記憶や感情なのです。その中に、自分が求めている答えがある気がしました。でも、どの星を選ぶべきかはわかりません。どの星も、私の一部であり、同時に私ではないような気がするからです。 だから私は、星を選ばず、ただその光の中を歩き続けます。それが正しいかどうかなんてわかりません。でも、歩き続けることが大切だと思うのです。歩きながら、私は少しずつ自分に近づいている気がします。たとえその道が終わりのない迷い道だったとしても。 今日も、この部屋から抜け出す方法を見つけることはできませんでした。でも、いいのです。いつか必ず出口が見つかると信じているから。そして、そのときこそ、本当の私に出会えるのだと思います。それまで私は、この夢色の迷い道をさまよい続けるのでしょう。 ねえ、あなたも迷子になったことがありますか?