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シャボン玉の雲
ハーフエルフの魔術師が、何やら魔法を詠唱している。 賢者の学園の、魔法訓練施設内だ。 安全対策が施されているので、禁呪と呼ばれる強力な攻撃魔法訓練もできる。 『風に舞う泡沫よ、虹に輝く酸の雲、わが意に従い敵を焼け!! アシッドクラウド(強酸の雲)!!』 無数のシャボン玉がハーフエルフの周りに湧き上がり、魔法の光を7色に輝かせながら収束しようとするも……。 「失敗ね……」 シルビアは、浮かんでいるシャボン玉をつつきながら言う。 ちなみに訓練用なので、強酸ではなくただの石鹸水を生成するように、呪式を変更している。 本来は、強酸で出来たシャボン玉が雲のごとく無数に集まって敵を攻撃する、恐るべき攻撃魔法だ。 禁呪に属する危険な魔法で安易な使用は戒められる。 シルビアもまだ訓練中で、使いこなせていない。 シャボン玉は形成されたが、うまく収束しなかったのだ。 「あのエロジジイのせい、御師様のおかげで少しコツがつかめたけど……。まだまだね」 先日兄のゴルドンと共に、エンハンサー(内功術)の老師を訪れて教えを乞うたのだが、畑違いと言え、精神鍛錬と集中を要する点は同じである。 本来、その目的で訪れたのではないのだが、魔法の修練にも有益だった。 エロジジイ、もとい、老師のおかげで剥かれて、もとい老師の教えで一皮むけた実感はある。 もう少しだ。 ついでに、シルビアには格闘家技能(グラップラー)が少しだけ身についていた。 これも本来の目的ではなかったが。