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ある女性捜査官の物語
『ここは……?』 彼女は、自分がどこかの路地裏にいることに気づいた。 『どうして私は、こんなところに?』 彼女はしばらく考えたが、甦ってきたのは断片的な記憶だけ。確か私はある組織に潜入して、そして罠にかかって…… 『まさか、あの組織が……』 彼女は自分の手を見つめた。自分の思った通りに動く、ロボットのような機械の手が、視線の先にあった。 いや、手だけではない。体も、青く煌めく外装に覆われた機械となっていた。 『私の体を、こんな機械に作り変えた……?』 だとしたら……やるべきことはただ1つ。組織に再び潜入し、自分の元の体を取り戻すことだ。 そうとなれば、ここで立ち止まっているわけにはいかないーーと、その時。 「お、お前……その体は?」 彼女はハッとして、声のした方へと振り向いた。するとそこには、ボロボロの白い道着を着た男が立っていた。顔見知りの格闘家だ。 彼の姿を見た彼女は、胸を撫で下ろした。彼に助けを借りよう。そう思って、彼に声をかけようとした……が、彼女の口からこぼれたのは、全く違う言葉だった。 『ターゲットを確認』 「は? お前、何を言ってるんだ?」 彼が戸惑う。だが、彼女も自分がどうしてそんなことを言ったのか分からーーいや、分かってしまった。 『これより、ターゲットを撃破します』 彼は私の敵ーー彼女の認識は、一瞬のうちに変わっていた。彼女は瞳を緑色に光らせ、攻撃態勢をとると、彼に襲いかかった。 「や、やめろ! 俺が分からないのか!?」 『あなたは……私の敵。私が倒すべき敵』 「くっ! 仕方がない」 彼はすぐさま応戦する。だが、彼女を知人と認識しているせいか、その攻撃には躊躇があった。一方の彼女はーー 『はあああっ!』 彼のことを完全に敵と認識しており、彼に容赦ない攻撃を繰り出す。その差が、戦いの趨勢を決した。 「う……うう……」 数分後、彼は地に伏していた。立ち上がるだけの力は、もうない。その様を見届けた彼女の瞳から緑色の光が消え、彼女は我に返った。 『わ、私は……なんてことを……』 自分でも信じられないほどのパワーを発揮し、彼を打ちのめしたことを、彼女は悔やんだ。 『私は……どうしてこんなことを……』 『こんなところにいたのね。CL001』 不意に名前を呼ばれ、彼女は振り向いた。そこには、彼女と同じ姿をした女性ーーいや、女性型のサイボーグが立っていた。彼女は誰? それに、CL001って……違う、私はそんな名前じゃない。私は、私の名前はーー 『CL001、総帥がお待ちよ。組織に戻りましょう』 瞬間、彼女の頭の中で、何かが切り替わった。そうだ。私はCL001。総帥に忠誠を誓い、組織のため戦う戦闘用サイボーグ。 CL001は頷き、自分の複製品であるCL002に歩み寄った。 『ええ、戻りましょう。組織の元へ』 そしてCL001は、地に倒れたかつての知人を気にかけることなく、路地裏から立ち去っていった。