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幻想の無花果(短編あり)
彼女は無花果の木の下で目を覚ました。夢から覚めたような気分だったが、周りには見知らぬ景色が広がっていた。空は紫色に染まり、太陽は巨大な無花果のように輝いていた。木の枝には熟した無花果がぶら下がり、甘い香りが漂っていた。 彼女は自分がどこにいるのか、どうやって来たのか、何も覚えていなかった。ただ、無花果の木には何か不思議な力があると感じた。彼女は木に手を伸ばし、一つの無花果を摘んだ。すると、その瞬間、彼女の頭の中に映像が流れ始めた。 それは彼女の過去の記憶だった。幼い頃に両親と遊んだ公園、初恋の相手と交わしたキス、卒業式で涙した友人たち、就職先で出会った恋人、結婚式で誓い合った夫……彼女は自分の人生を振り返り、幸せだったことに気づいた。 無花果の木は彼女に人生の贈り物を見せてくれたのだ。彼女は涙を流しながら、もう一つの無花果を摘んだ。今度は未来の映像が現れた。老いても夫と仲良く暮らす姿、子供や孫に囲まれて笑う姿、穏やかに息を引き取る姿……彼女は自分の人生に満足し、安心した。 無花果の木は彼女に人生の希望を与えてくれたのだ。彼女は感謝の気持ちで満たされながら、最後の一つの無花果を摘んだ。すると、何も映像が現れなかった。彼女は不思議に思って、無花果をかじった。 その瞬間、彼女は目を覚ました。元いた場所に戻っていた。空は青く晴れ渡り、太陽はまぶしく輝いていた。木の枝には無花果などなく、ただ葉っぱが揺れていた。 彼女は夢を見ていたのだと気づいた。でも、それは本当に夢だっただろうか?彼女は手に持っていた無花果を見て驚いた。それは紫色の空と同じ色をしていた。