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妖怪図鑑No.3『口裂け女』
「……わたしきれい?」 塾の帰り道、街灯の明かりもまばらだった暗い夜道で口元を完全に隠すほどのマスクをした若い女性が話しかけてきた。 これは学校の友人達が噂しあっていた『口裂け女』というヤツだろうと私は直感的に悟った。 その女性は10代後半、いってても20代前半。少なくとも私のお母さんよりは若いだろう。マスク以外に見える部分だけでもそれが分かるほど彼女の肌は若々しくて、素直に「きれいです」と受け答えた。 彼女はそれを聞くと少し嬉しそうにしてから、自身のマスクを剥ぎ取った。 「……じゃあこれでも?」 彼女の口は耳元まで大きく裂けていて、それに合わせるように赤い口紅がべったりと塗りたくられていた。 不気味だった。まるで流血のようで、たった今切り裂いたように見えたからだ。「きれいじゃない」とも言おうとしたが。そうすると殺されるという話だったか。 私は、息をゴクリと呑んでからもう一度「きれいです」と上ずった声で彼女に言いのけた。 彼女はその言葉を聞いて、耳元まで裂けた口をにんまりと吊り上げる。 「…………じゃあ貴女も同じにしてあげるわね」 その女は、何故かバックからハサミを取り出していた。 (参考:磐城民俗)