1 / 4
スペルマスタンド
一見ガソリンスタンドに見えるこの建物。実は政府の少子化対策に設置された、「スペルマスタンド」と呼ばれる施設である。 精液は事前にドナーが自らの精液を政府へ提出し、厳しい遺伝的精査をクリアした上で培養される。その後培養された精液はドナーの予約した日時に、ドナー指定のスペルマスタンドの給油機ならぬ給精機へ貯蔵される。 ドナーは予約した日時にスペルマスタンドへ赴き、精液提供時に事前に登録した給精員の女性の性器へ給精ノズルを挿入、給精を開始する。給精中は給精行為阻害や給精員に身体的外傷/内傷が生じる以外の、あらゆる性行為が法的に許可される為、給精と同時に口腔性交や乳房性交、肛門性交やスペルマスタンドで居合わせた他ドナーを交えた乱交行為に勤しむドナーや、給精中に給精員に失禁/脱糞を促す糞尿趣味のドナー等もいる。 給精員の腹が精液で妊娠したように膨れ上がるまで精液が注がれた後、一度給精は自動的に停止され、最後に精液を給精員の子宮内へ留めるための粘土の高いバイオゲルが注入され、子宮口へ栓がされる。このバイオゲルは豚の射精メカニズムを参考に開発されており、三日三晩子宮口へへばり付いた後に、自然溶解する仕組みになっている。 もし一度の給精で着床にまで至らなかった場合は、精液の培養とドナーによる給精が再スケジュールされた上で、給精員が着床するまで一定回数繰り返し給精行為が行われる。規定の回数を超過後もドナーの精子と給精員の卵子の相性が悪く着床が見込めない場合は、その時点でパートナー関係を解消され、それぞれ別々のパートナーを得て再度給精行為に励む事となるが、事前調査の段階で遺伝子的相性も考慮される為、この時点でドナーと給精員の相性が悪いと言う事は、9割方起こり得ない。 給精員の中には給精時の感覚が病みつきになってしまい、あえて給精日に避妊し規定回数超過目前まで何度も給精行為を繰り返す給精員も存在する。本来法的には給精員の給精日前後の避妊は固く禁止されているのだが、女性の人権を無視した制度へのせめてもの慰めという意味合いで、該当行為は政府に黙認されているのが実情である。 こうして生まれた子は一度国預かりとなり、ドナーと給精員双方の合意があった場合のみ、その二人の子供として生育されていく。ドナーか給精員のどちらか片方でも生育を拒否した場合は、生まれた子供は国の子供として政府に育てられていく。現状ドナーと給精員の子供と国の子供になる割合は4:6であり、わが国の社会的背景や制度自体の倫理的問題から、ドナーと給精員の子供として育てられていく割合は少ない。 ドナーと給精員の子供として育てていく場合は、ドナーと給精員は給精行為で出来た子供以外に、最低二人の子供を生み育てるよう義務付けられる。勿論出産数に応じて国から養育補助金が支払われる。一方国の子供として子供を献上した場合は、ドナーと給精員はパートナー関係を解消され、それぞれ別々のパートナーを得て再度給精行為に励む事となる。この場合の給精員に課せされた出産ノルマは最低三人であり、本人の希望によってはそれ以上に複数のドナーとの子供を妊娠、出産する給精員も存在する。なお給精員には出産人数に応じた多額の謝礼が支払われるため、貧困層出身の給精員程、出来るだけ多くの子を生み、子供を国に献上する傾向にある。 無論「女性への人権侵害である」という批判の声は国内外問わず無数に存在しているが、それ以上にわが国の少子高齢化問題は深刻になっている。わが国の滅亡と女性の人権を天秤にかけ、わが国は国の存続を優先したのである。 ※何某書房刊 『わが国の少子高齢化対策近代史』より引用