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優しい死神の話
死神「迎えに来たぞ,婆さん」 老婆「……あらまあ,お久しぶりですお爺さん。貴方が先に逝ってから,5年ぶりですね」 死神「そうだなぁ。ようやく迎えに来れたよ。元気そうで何よりだ」 老婆「元気だなんて,もうすぐ死ぬ相手に何を言ってるの。でも死ぬ時はどんなおっかない死神さんが来るのかと思ってたら,貴方の顔の死神さんとはねぇ」 死神「ははは,死神さんがワシの魂を借りたいって言ってね。ワシも婆さんがちゃんとあの世に逝けるかが不安だったから,ちょうどよかったわい」 老婆「ですねえ。お爺さんと一緒なら,あの世でもどこでも安心して逝けますよ」 死神「うむ。それじゃ,一緒に逝こうか。足元に気をつけてな」 老婆「ええ,ええ。また前みたいに,私の手を引いてくださいな」 生前に善行を積んだ清き魂を迎えにいく時,死神はその者が最も愛した死者の魂を借りて現れるという。 それは,優しい死神から生前に善行を積んだ者への,最後の花向けなのかもしれないーー。