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キラキラとキキララを間違えてたお題としてキキララの擬人化。
反射的軌道微分における星屑極大論 発明家のお父さま星と、詩人で絵かきのお母さま星が暮らすゆめ星雲のおもいやり星――そこに生まれた双子の星、ララとキキ。姉であるララは、いつも可憐なピンク色のふわふわ髪を揺らしながら、地上を覗き見るのが大好きだ。弟のキキは青い星屑をちりばめた髪をくるくるさせながら、発明の手伝いと称してお父さま星のアトリエを爆発寸前にするのが日課である。 とはいえ最近、ふたりのワガママさと甘えん坊なところが目につくようになっていた。お父さま星は何度も発明器具を破壊され、「そろそろ修行の旅に出さねば」と嘆き顔。お母さま星は詩を書こうにもインクの小瓶を戦車ごっこに使われ、「言葉も浮かばないわ……」と肩を落としている。そんなふたりを立派に輝く星に育てるため、相談の結果、いよいよ地球への修行の旅が決まったのだった。 「へえー、地球ってお菓子がたくさんあるんだよね? 夢見るほどおいしいんだって? 恋と一緒だな!」 朝の支度をさぼってまだベッドでうだうだしているキキが、妙に目を輝かせて口癖を飛ばした。ララは呆れたように天井を見上げる。 「そんなに甘いかどうか、食べてみなきゃわからないでしょ!」 「ふふん、ぼくはもう知ってるよ。地球のお菓子は宝石みたいにキラキラしてて最高だって。大体、うまくいかないことなんてないさ!」 「冗談、顔だけにしろよ」 突拍子もない自信からくるキキの台詞に、通りすがりのお月さまがツッコミを入れた。窓の外からひょっこり顔を出していたのは、お父さま星が開発した“月面ファインダー”でいつでもどこでもひょいと顔が出せる便利ツールを使って、様子を見に来た月の妖精である。 出発の日。お父さま星は発明品をみっちり詰め込んだ、星屑リュックサックをふたりに渡した。 「このリュックには、おまえたちが困ったときに役立つ発明がいくつも入っているぞ。油断するなよ!」 そこへすかさず、お母さま星が描いた大きなイラスト付きの詩を手渡す。 「あなたたちが寂しくなったら、この詩を読んでちょうだい。私の絵も、きっと励みになるわ」 聞けば、その詩はお母さま星が一晩中かけて書き上げたもので、イラストにはふたりの幼いころの姿が可憐に描かれていた。ララはそれを見るなり、「かわいい!」と喜んで抱きしめ、キキは「ぼくもかわいい!」と調子に乗り、鏡の前で同じポーズをとる。その姿にお父さま星は顔をしかめつつも、「仲良くやるんだぞ」としばしのお別れを告げた。 無事に地球に降り立ったキキとララ。まずは空に浮かぶ雲さんたちと挨拶しようと、雲の上をぴょんぴょん移動する。しかし二人は思いのほか足元がふわふわすぎて、すぐにずるりと滑ってしまう。 「うわあ! なんだか落ちそうで怖い!」 「大丈夫だよ。雲ってふわふわだよ。恋と一緒だな!」 キキは余裕しゃくしゃくな様子だが、足一歩踏み出すごとに転びそうになっているララは半泣きだ。すると雲の妖精が白い手をのばして、「お手をどうぞ」とスマートにエスコートしてくれる。ララは感激して手をとろうとするが―― 「わあっ! エスコートはありがたいけど、やっぱり足元が頼りないわ!」 ふたりは雲に包まれながら、一回転してふわりと着地。高みから覗き込んでいたお日さまが心配そうに声をかけた。 「冗談、顔だけにしろよ」 と、またもやツッコミを入れられてしまう。どうやら、ここ地球では、うっかり踏み外してもすぐにツッコミが戻ってくるらしい。キキは「へへん、ぼくたち、人気者ってわけだね!」とまったく懲りずに嬉しそうだ。 次に訪れたのは、深い森の動物たちの集まる秘密の広場。キキとララはテンションが上がり、獣道を発明品で探検。さっそくリュックから取り出したお父さま星お手製の「スーパー星屑レーダー」を森に向けると、光をピコピコ瞬かせて「何かいるよー」と知らせる。 「そーれ、そこにいるのはシカさん? ウサギさん? ボクたちと一緒に遊ばない?」 「待ってキキ、前をちゃんと見て!」 突如現れたのは、もこもこのクマ――かと思えば、お母さま星の描いたように可愛らしい表情をした大きなぬいぐるみのような生き物だった。 「ボクはクマのココモ。ゆめ星雲なんてところから来たの? 面白そうだね。一緒に散歩しようよ!」 ふたりは大はしゃぎでクマのココモに飛びつき、もこもこを堪能しながらあたりを散策。木漏れ日の差し込む森の中には、小鳥やリス、妖精たちもいて、まるでパレードのようだ。ララは陽気に笑う。「こんなに大勢で歩くなんて、なんだかフェスティバルみたい!」 しかし、キキは新しい発明品を試すことに夢中で、やや騒ぎっぱなし。そのときココモがうっかり地面のくぼみにはまってしまう。 「たっ、たすけてー!」 「冗談、顔だけにしろよ」 森の小鳥がちゃっかりツッコミを入れ、ララは苦笑まじりにクマを引き上げようとする。しかしなかなか重量があり、うまくいかない。 「こういうときこそ、ぼくたちの出番さ!」 キキは得意げにリュックをあさり、怪しげな光線銃のような発明品を取り出した。 「よし、『まるごとフワフワビーム』!」 ビームをココモに向けると、その体がふわふわと浮き上がり、ひょいっと地面から抜け出せたのだ。 「あら、すごいわ!」 「どうだい? これこそお父さま星譲りの天才発明ってやつさ!」 と褒めを要求するキキに、ララはあきれ顔ながら、「助かったからいいけど、ちゃんと使い道考えて使ってよね」とつぶやく。 そんな調子で奇妙な失敗と奇抜な発明に支えられながらも、キキとララは地球を楽しんでいた。しかし楽しいばかりではなく、たまに迷子になることもある。ある木陰で途方に暮れていたとき、小さなお星さまさんたちがつきそってくれて、夜空を見上げてコンパス替わりにしてくれたり、虹色の魔法を使う妖精さんが空に小さな道しるべを描いてくれたりした。 「……もしかして、ぼくらはいつもみんなに助けてもらってばっかり?」 と、キキが珍しく神妙な面持ちでつぶやく。するとララが笑顔で肩をぽんとたたく。 「でもその分、私たちもみんなを笑顔にしてる……はず、よね。きっと」 不意にクマのココモがやってきて、「人々の笑いは最高だね。恋と一緒だな!」と口癖混じりに宣言すると、ララとキキは顔を見合わせて笑い合った。そばにいた小鳥は、たちまちツッコミ態勢に入ったようだが、ふたりは聞こえないフリをしている。 そんなある日のこと、空に浮かぶ雲の上で休憩していると、お父さま星とお母さま星からひとつの光が届いた。それは、お母さま星の詩と絵の一部が動き出してふたりを呼んでいるように見えた。地球での修行の日々を暮らすうちに、甘えん坊だったふたりの性格も少しずつ変化し始めたのだろうか。 「家に帰るのはまだ先でも、きっとちゃんと輝ける星になれるよね」 ララがつぶやくと、キキは得意げに胸を張った。 「そりゃもちろんさ。ぼくらは双子星のキキとララだもの。全宇宙を照らすくらい、でっかく輝いてみせるよ!」 夜霧にとける静謐の空気の中、ふたりの足元を照らす月光が、白金のシルクのように雲海を染め上げています。遠く小さな妖精たちがきらきらと微笑み、風のささやきは新たなる冒険を予感さ