蒼空のワルツ
白い陽光が降り注ぐ庭園で、私はそっとスカートを揺らしながら振り返った。風が髪をさらい、蒼いリボンが踊る。薄い布の袖口にあしらわれた花飾りが陽射しを受けてきらめいた。刺繍の一つひとつに、花の香りと暖かな思い出が宿っているようで、なんだか胸がじんわりと熱くなる。 「アルマ!」 遠くから私を呼ぶ声がした。振り返れば、頬を真っ赤にしたフェイが立っている。彼は相変わらず少し不器用で、でもその優しい瞳は嘘をつけない。 「待たせちゃった?」 私が微笑むと、フェイは慌てて首を振った。そして、手に持っていた小さな箱をこちらに差し出す。「これ、約束してた…君に。」 箱の中には、一粒の淡いブルーの宝石が輝いていた。指輪ではない、ネックレスでもない。それはペンダントトップだったけれど、形が少し変わっていて、まるで空を切り取ったかのような透明感がある。 「これって…?」 「蒼空の欠片って言われてる石なんだ。持っていると、自分の進むべき道が見えるって伝説があって。」 フェイの言葉に、私は一瞬だけ戸惑った。 進むべき道…そんなの、今の私にはわからない。村の外に出るのは初めてで、未来は霧に覆われているみたい。だけど、それが怖いというより、むしろわくわくする。だって、知らないことを知れるのだから。新しい景色を見つけられるのだから。 「ありがとう、フェイ。」 ペンダントを手に取り、光に透かしてみる。その奥には、広がる蒼い空と私の未来が映っているように思えた。 旅の始まりは突然だった。村に降り立った王国の使者が、私を探していると言った瞬間から、運命の歯車が回り始めた。伝説の「蒼空の巫女」である私の力が、王国の危機を救う鍵だと言われたとき、心の中に揺れるものがあった。 けれど、村を離れることが怖かったわけではない。小さな庭や咲き誇る花たちが好きで、そこでの平穏な生活に幸せを感じていたのも事実。でも、本当はもっと広い世界が見たかった。私の中に眠る何かが、まだ知らない風景に触れるのを待っている気がしてならなかったからだ。 フェイと別れを告げた夜、満天の星空を見上げながら、私は心に誓った。どんな困難が待っていても、私は私の道を選び続けると。蒼空のペンダントが私の胸元で光を放ち、それがまるで星々の道しるべのように思えた。 そして今日。馬車に乗り、初めての旅路が始まった。村の花畑を抜けると、見たこともない広がりが目の前に現れる。森の深い緑、山々の悠然とした姿、大地の香りすら新鮮だった。 どこかで鳥が囀り、遠くの川がせせらぐ音が聞こえる。すべてが私の知らないものばかり。それでも、胸の奥で確信が芽生えた。私の冒険はきっと、世界を変えるだけでなく、自分自身を変える旅になる。 夕暮れ時、馬車が丘の上で止まった。空がオレンジ色に染まり、その向こうに広がる都市の灯りがちらちらと瞬いている。あの街で、私は何を見つけるのだろう。どんな出会いが、どんな未来が待っているのだろう。 蒼空のペンダントをそっと握りしめる。 「私なら、大丈夫。」 そう呟いた私の声は、風に乗ってどこか遠くへ運ばれていった。 そして私は、最初の一歩を踏み出した。 私の物語は、ここから始まる。未来は、まだ誰にもわからない。