姉との再会
この扉の先に、姉がいる。 ここに辿り着くまでに、多くを失った。手段を選ばなかったから、人に恨まれるようなこともたくさんあった。そして何より、時間がかかりすぎた。姉と離れ離れになってから17年が過ぎていた。姉が僕のことを覚えているかわからないし、これが姉にとって最善の選択肢なのかどうかもわからないでいる。 それでも、僕にとってはこうする以外になかった。ただ姉を取り戻したい。僕のエゴに過ぎなくてもいい。僕が生きる意味はそれ以外に思いつかなかった。迷いを跳ねのけるように、僕は分厚い金属の扉を押し込んだ。 暗闇に包まれた部屋に、光が差し込む。 そこには、ひとりの少女がいた。 僕は困惑した。姉は26歳になっているはず。目の前の少女は、明らかに十代前半の顔つきと身体をしていた。身体は瘦せ細り、髪は乱雑に伸びて色褪せていた。しかし、よく見ると少女は姉の面影を宿していた。姉の時間もまた、9歳の頃から止まったままだった。 「おおきく、なったね」 先に口を開いたのは少女の方だった。それはたどたどしい口調で、文字を確認しながら読むかのような。少女は僕をまっすぐ見据えていた。その目には、微かな涙が浮かんでいた。 「ずっと、あいたかった。もう、あえないと、おもってた」 長い間忘れていた涙が押し寄せてくる。姉のその言葉を聞いて、すべてが許されたような気がした。 「おねえちゃ……」 嗚咽で言葉にならない。 「あいかわらず、なきむし、さんだね」 僕は大声で、ないた。心に沈んでいた孤独を押し流すように。ずっとずっと、この瞬間を夢見ていた。 「僕のこと、覚えて……くれて……」 言葉を紡げないほどの感情の奔流。拭っても拭っても、17年分の涙はやみそうになかった。 不意に、僕の身体を優しい感触が包んだ。 「あたりまえ、じゃない。わたしの、おとうと、なんだもん」 姉も大きな涙を流していた。おたがいが、おたがいの存在を求めていた。どちらからともなく、姉と僕は唇を重ねた。目の前にいる存在を確かめるように。これが夢ではなく現実だということを味わうように。そして、おたがいが失った時間の隙間を埋めるように。時間を忘れるほどに、姉と僕はおたがいの体温を貪った。 「ありがとう」